レポートNo116 2014.6.20 <倉林 勝>
ヤマトHDやSGHDは営業収益に対して営業原価が約93%かかる。営業原価は運送等に係る経費、車輛費や燃料、人件費、倉庫等の物件費が含まれ、人件費は営業収益の約52%に達する。円安やイラク情勢から原油価格は上昇し、人手不足から人件費は上昇し、営業原価を押し上げる。宅配便はヤマトHDやSGHDの主力事業であるが、デリバリー事業はヤマトHDが増収減益、SGHDが減収増益と明暗を分けた。佐川の飛脚宅急便は1個当たりの運賃が上昇し、ヤマトの宅急便は 下落する。この差が大きな要因となり、各社ともに単価アップを計画する。物流コストは必然的に上昇する気配を見せる。物流コストダウンのためのチェックリスト(中小企業庁)を参考に、再度コストの見直しが必要となってきた。
4月の消費者物価指数は消費増税の影響もあって総合で前年比+3.4%、生鮮食品を除く総合で前年比+3.2%上昇した。
消費税は土地の譲渡・賃貸、金融・保険、家賃や医療・福祉・教育などは対象外である。そのため、課税対象品目の全てが消費税率引き上げ分を小売価格に転嫁すれば、今回の3%の増税によって物価は2%程度押し上げられることになる。
消費増税による2%を除いても4月の物価は、1.4%、1.2%上昇したこととなる。
円安によるエネルギーを含む輸入価格は上昇し4月はガソリンも6.1%上昇した。また、天候不順などから食料品も大きく上昇し、人手不足もあって全体に物価上昇の機運が高まっている。
ユニクロや良品計画は秋からの値上げを発表した。しまむらは増税後も価格を据え置く方針だったが、コスト上昇の中で第1四半期(3~5月)は減益となり、今後の価格戦略に注目が集まる。
失業率は2011年度の4.5%から2014年4月は3.6%に低下した。有効求人倍率は2011年度度の0.68倍から2014年4月は1.08倍となり、人手不足が一気に高まった。
2013年平均の有効求人倍率は建設工事などで6.36倍、運輸などで2.09倍、介護サービスなどで1.92倍となっている。
今年4月の新規求人状況を見ると、全産業で前年比+10.0%の増加である。製造業+23.2%、宿泊業・飲食サービス業+11.6%、医療・福祉+9.6%、建設業+9.4%、卸売業・小売業+9.4%、運輸業・郵便業+6.6%などと前年に比べて求人が増加している。
政府方針もあり、人件費の上昇は避けられない状況になりつつある。
ヤマト(ヤマトホールディングス)や佐川(SGホールディングス)の決算書を見ると、運賃等の営業収益に対し、営業原価が92~93%前後で、販売・一般管理費が3%前後かかり、営業利益は5%前後となる。
営業原価は運送等に係る経費、車両、燃料、高速代、人件費、倉庫等の物件費などが含まれている。
特に人件費は営業収益の約52%となり、労働集約型の典型的な業種となっている。
ガソリン価格は円安から価格が上昇し、イラク状況がさらに不安定感を増す。人手不足から人件費も上がり結果として、営業原価は上昇し、物流費や配送条件などに影響を及ぼす。
今まで、低価格競争のなかで、なんでもやってきた事を見直し、自社の効率に合わないことはやらないとの方向を打ち出している。
(A)宅配便
宅配便は重量30㎏以下の一口一個の貨物を特別な名称を付けて運送するものをいう。(国土交通省)
宅配便は平成5年に11億89百万個を扱い、平成15年は28億34百万個となり、平成24年には35億26百万個まで拡大した。
取扱個数はリーマンショック後のH21年は減少するものの毎年伸び続ける。
企業から個人、個人から個人とネットビジネスの成長と共に伸び続けている。
取扱個数の約99%がトラック便で、約1%が航空便となっている。
ペリカン便はH21年3月まで日本通運が運営していたが、H21年4月から日本通運と郵便事業との合弁会社であるJPエクスプレスが運営することとなった。運営が思うように行かず、H22年7月にJPエクスプレスを清算し、郵便事業がゆうパックに統一し、日本通運は宅配便から撤退した。
現在はヤマト、佐川で約82%、ゆうパックを含めた3社で約93%の構成比となっている。
*個別企業
①日本郵便株式会社(非上場)
日本郵便(株)はH24年10月に、郵便局(株)と郵便事業(株)が統合発足し、早期の上場を目指している。
日本郵便(株)は郵政事業に係る基本的な役務(ユニバーサルサービス)、郵便局ネットワークを生かした(株)ゆうちょ銀行、(株)かんぽ生命保険の受託、カタログ販売、JPタワー等の不動産事業を運営している。
統合により郵便業務等の収益が増加し、営業収益を押し上げるが、営業原価が上昇し営業利益等を押し下げる。
②日本通運株式会社(東証1部)
日通は運輸業の総合商社的存在で、宅配便を除き幅広い事業を行い、子会社や関連会社を含めて365社から構成される。
:国内運送事業は、複合事業(鉄道運送、トラック運送、倉庫・付随事業等)、警備輸送(現金輸送等警備を付随する事業等)、重量品建設(重量物の運搬、架設、設置等の付随する事業等)、航空(旅行業含む)、海運(海上輸送、港湾運輸等)を行っている。
:海外運送事業は米州、欧州、東アジア、南アジア・オセアニア等に拠点を置き活動を行っている。
:販売事業は日通商事等を中心に、物流機器、包装資材、梱包資材、車両、石油、LPガス等の販売、また、リース、車両整備、保険代理店等を運営する。
:その他の事業は不動産事業、パナソニックなど特定業界におけるロジステック事業、貸金業、自動車教習所、労働派遣業などを行う。
③ヤマトホールディングス株式会社(東証1部)
ヤマトホールディングス(株)はデリバリー事業(宅配便・メール便)、BIZ-ロジ事業(輸送機能と物流機能を企業に提供)、ホームコンビニエンス事業(生活関連サービス・引越しなど)、e-ビジネス事業(情報・物流・決済機能を融合したサービス、電子マネーサービス等)、フィナンシャル事業(通販配送時の代金回収や企業間の決済業務等)、オートワークス事業(グループ車両のメンテナンス等)、その他事業(チャーター便等)を、子会社44社、関連会社3社で構成される。
④SGホールディングス株式会社(非上場)
SGホールディングス(株)はデリバリー事業(飛脚宅配便、メール便、航空便、引越し、納品代行等)、ロジステック事業(物流業務の包括的受注、物流システム構築、在庫・受注管理、倉庫業等)、不動産事業(不動産賃貸・管理、不動産開発、再生可能エネルギー供給等)、その他(e-コレクト、自動車整備・販売、システム販売・保守、人材派遣・請負等)を佐川急便(株)を含めて44社から構成される。
企業年金基金清算に伴う一括拠出金47億円を特損に計上したことなどから、当期純利益は減少する。
ヤマトHDは増収であるが営業利益は減益となった。一方、SGHDは減収ながら大幅営業利益増となった。ヤマトHDの営業原価増に対しSGHDは減少する。従業員総人数はヤマトがデリバリー事業で1万5000人増加し(現在17万9900人)、全体でも1万6000人(現在21万1300人)増加する、これが大きな理由であろう。
宅配便を中心とするデリバリー事業は両社共に主力事業であるが、営業収益はヤマトHDは増加するがSGHDは減少する。しかし、デリバリー事業の営業利益はヤマトHDが大きく減少するがSGHDは大きく増加する。利益率もH25年3月期はヤマトHDが高いが、H26年3月期はSGHDがヤマトHDを大きく上回った。
ヤマトHDのデリバリー事業のうち宅急便の構成比は営業収益の69.7%に達した(宅急便の営業利益、SGHDの宅急便構成比は不明)。
ヤマトHDのデリバリーは、25年10月に判明した「クール宅急便」の品質管理問題から、専任部署、先任者の配置等を行う。また、取扱数量増加に伴う集配体制の整備(人員増を含む)、2月の記録的な大雪への対応など費用が増加した。
SGHDのデリバリー事業は、宅配便の適正運賃の収受に向けた取り組み、路線便や中継センターの効率的稼働などのコストコントロールを強化した結果、取扱個数は減少したが、単価が上昇したことで減収増益となった。
アマゾンから撤退したSGHD、取り組みを強化したヤマトHDの差が生じたようだ。
宅急便の1個当たり平均単価を見ると、
ヤマトHDはH24年3月600円、H25年591円、H26年574円と低下し続ける。
SGHDはH20年の530円から下がり続けH25年には460円となるが、H26年には487円に上昇した。
ヤマトHDは平均5~10円程度の上昇を計画しているようだ。
宅配便に係る人員増、人件費増、燃料価格上昇等から主力であるデリバリー事業の収益改善には、宅配便の単価上昇は避けられない。
現在、大和HDとSGHDが宅配便の2強であるが、日本郵便も「クールEMS」などを実施し、宅配便のシェアを上げる方針だ。JPエクスプレスを立ち上げたが、システム障害等のトラブルを起こし、吸収したが統合効果を発揮できずに来た。日本郵便は全国の配送網、輸送能力を活かし、企業向け物流サービスを強化する。集配業務を集中処理できる大規模な物流拠点を全国に20か所設置し、配送に加え在庫管理や梱包、決済サービスなどを提供し、法人顧客を取り込む方針だ。今夏の中元物流は、事前に個数契約などを要求する2強に対し、日本郵便が戦いを挑む。
また、「ゆうメール」より一回り大きいサイズの「ゆうパケット」(厚さ3㎝以下、1㎏以下の荷物)を従来の宅配便価格の半額程度で扱う方針を打ち出し、小型宅配便の起爆剤とする。
日本郵便も目を離せない存在になりつつある。
(C)物流コストのチェックポイント(中小企業庁)
物流とは「生産ラインの末端から消費者に至るまでの製品の効率的な移動に関する活動」と定義される。
基本的な構造は、生産地(メーカー等)から物流拠点(配送センター、倉庫等)への商品供給のための輸送(Transporation)と、物流拠点における保管、在庫管理、包装、荷役、そして物流拠点から顧客(小売業等)への配送(Delivery)、および情報、流通加工などのシステムから構成される。
顧客である小売業は多様化・個性化した消費者ニーズへの対応として、卸業等の「適時・適品・適量」という物流体制を前提とした品揃えの実現を目指している。
(日本経済新聞社・流通の基本)
現在、輸送・配送費や人件費の上昇から物流費全体が上昇機運にある。売上や粗利率が大きく増加しない中で、物流費の上昇は企業にとって大きな問題となってきた。
的確な物流管理に当たっては、自社の物流コストがどれだけかかっているのかを把握することが重要であり、第一歩となる。そのため、中小企業庁は物流効率化のために「物流コスト算定マニュアル」を発表している。
*中小企業庁・物流コスト算定マニュアル
①物流コストの大枠をつかむ
人件費小計
・・・管理者、一般男子、一般女子、パートアルバイト
配送費小計
・・・支払運賃、センターフィー、車輛費、車輛維持費
保管費(流通加工費含む)小計
・・・支払保管料、支払作業量、梱包材料費、自家倉庫費、倉庫内機器費、在庫金利
情報処理費小計
・・・情報機器費、消耗品費、通信費
その他小計
・・・事務所費
これらを合計して、トータル物流コストを算出する。
売上高、売上原価、粗利に対しトータル物流コスト比率を算出し、管理指標とする。
②損益計算書から物流コストをつかむ
支払物流費小計
・・・支払運賃、支払荷造費・支払材料費、支払保管料、センターフィー
自家配送料小計
・・・車輛燃料費、車輛修理費、車輛賃貸料、減価償却費、保険料
物流人件費小計
・・・物流担当員給料手当、役員給与手当、事務員給与手当、福利厚生費、
物流活動関係費小計
・・・消耗品費、通信費、減価償却費、土地建物賃貸料、物流機器賃貸料、情報機器賃貸料、保険料、修繕費、水道光熱費、租税公課、その他管理費
物流金利小計
・・・在庫金利、施設金利
これらを合計して、トータル物流コストを算出する。
①と同様に売上高、売上原価、粗利に対しトータル物流コスト比率を算出し、管理指標とする。
物流コストを定期的に(できれば毎月)調べ、前年同月と比較し、物流コストの推移を把握し、コスト増加の要因をチェックする等に活用することが重要である。
*卸売業(小売業)チェックポイント
①物流コスト
:売上高比率はモデル企業と比較して高いか
:売上高比率は前期より増加しているか
②人件費
(構成比)
:人件費の比率はモデル企業と比べて高いか
:人件費は前期より増加しているか
(管理者)
:管理者が必要以上に多いか
:担当者任せにできない、定型化されていない作業が多いか
:事務所・倉庫が過度に分散しているか
(女子)
:女子の活用が少ないか
:倉庫作業が女子では困難な手荷役が多いか
:女子では困難な夜間・早朝作業が多いか
(パート、アルバイト)
:パート、アルバイトの活用が少ないか
:業務の単純化、定型化が遅れているか
:業務マニュアルは作成されているか
(人件費単価)
:各階層の単価はモデル企業と比べて高いか
:作業のバラツキが多いため、残業が多くなっているか
:高賃金の人が単純作業をすることが多いか
(作業効率)
:倉庫の機械化が遅れているか
:倉庫の作業ロケーションが悪く、作業能率が低下しているか
:入荷遅れによる手待ちが多発しているか
:緊急出荷による作業変更が多発しているか
*検品・保管のスペースは十分確保されているか
*バーコード等の活用はしているか
*商品保管は誰でもわかるように表示されているか
*上部に置いてある商品を一度下ろしてから、下の商品を取り出すムダがあるか
*値付け・包装の機械化が遅れているか
*入出庫荷役の機械化が遅れているか
③配送費
(構成比)
:配送費の比率はモデル企業と比べて高いか
:配送費は前期から増加しているか
(支払運賃)
:支払運賃は前期より増加しているか
:緊急輸送(配送)が多く成っているか
:数社からの相見積もりによる競合発注を実施しているか
:計画的配送を実施しているか
:他社との共同配送を実施しているか
(センターフィー)
:センターフィーは前期より増加しているか
(車輛費・車輛維持費)
:車輛費・車輛維持費は前期より増加しているか
:自社便の積載効率が低下しているか
:積み込時間、待ち時間が増加していないか
:顧客先での荷卸し時間、待ち時間が増加しているか
:多頻度配送により走行距離/月が増加しているか
④保管費
(構成比)
:保管費の比率はモデル企業と比べて高いか
:保管費は前期から増加しているか
(支払保管料)
:支払保管料は前期より増加しているか
:在庫量は前期から増加しているか
:取扱アイテム数やガサものが前期より増加しているか
:賃料を近隣相場と比較して賃料を交渉しているか
*在庫量が発注計画に反映されているか
(支払作業料)
:支払作業料は前期より増加しているか
:入荷遅れ、出荷指示遅れにより、待ち時間が増加しているか
(包装材料費)
:包装材料費は前期より増加しているか
:倉庫・配送の荷扱い基準を整備して、荷痛み防止を進めているか
(自家倉庫費)
:棚、移動棚、中二階等の有効活用により保管効率の向上を進めているか
:倉庫内に無駄な空間(特に上部空間)が多くないか
(在庫金利)
:過剰品、停滞品をリストアップし、削減を進めているか
:適正在庫基準による計画発注をしているか
⑤情報処理費
(構成比)
:情報処理費の比率はモデル企業と比べて高いか
:情報処理費は前期より増加しているか
(情報機器費・消耗品費・通信費)
:各情報機器が有効に活用されているか
:不必要なプリントアウトをしているか
:打ち出したプリンター用紙等を再利用しているか
*オンライン発注を利用しているか
*発注の時間を決めて実施しているか
*1日に同じ仕入先に何回も発注することが多いか
⑥その他処理
(構成比)
:その他処理の比率はモデル企業と比べて高いか
:その他費用は前期より増加しているか
:その他特別にかかる費用があるか
⑦その他
(物流品質)
:誤納(数量・品種)は多いか
:欠品は多いか
:遅配は多いか
:作業員の商品取扱は丁寧か
:物流作業(値付け等)にミスはないか
*は小売業のチェックポイントで、卸売業になかったものだが、共通の項目と理解して付加した。
上記、各項目を
高い・同等・低い、増加・横ばい・減少、少ない・やや少ない・適性、悪い・やや悪い・適性、未実施・一部実施・実施、等の3段階で自己評価し、問題点を摘出し対策を講じる。
モデル企業の数値は取りにくいので、目標設定との差異を確認しても良いだろう。また、それぞれの企業により不要の項目を除外しても良いだろう。
(D)売上高物流比率・物流コスト削減実施状況(日本ロジステックシステム協会)
日本ロジステックシステム協会は、2013年度(調査は2012年度)の結果を発表した。
回答した192社の売上高物流費比率は4.77%と前年の4.72%から小幅上昇した。
円安進行による燃料価格の上昇、慢性的な人手不足、景気回復による輸送需要の回復などから、運賃をはじめとする物流コストは上昇傾向で推移したと分析している。
*業種別売上高物流費率
①卸売業
卸売業(食料飲料系)・・・6.13%
卸売業(日用雑貨系)・・・4.90%
その他卸売業・・・4.67%
卸売業(総合商社)・・・1.72%
②小売業
小売業(通販)・・・12.09%
その他小売業・・・7.83%
小売業(生協)・・・5.12%
小売業(コンビニエンス)・・・4.88%
小売業(量販店)・・・2.50%
回答企業は192社であるが、業種で見ると少数の企業の平均値である。また、それぞれの企業形態によっても変わるので参考値としてもらいたい。
(製造業は省略)
*物流コスト削減策の実施状況
回答182社の実施状況の上位回答を記すが、回答企業の多くが製造業のため、卸売業や小売業とは多少違いがあるかも知れない。参考として見てほしい。
:積載効率の向上(混載化、帰り便の利用等)
:在庫削減
:物流拠点の見直し(廃止・統合・新設)
:保管の効率化
:輸配送経路の見直し
:直送化
:ピッキングの効率化
:輸配送の共同化
:包装の簡素化・変更
:配送頻度の見直し
:事故防止対策の実施
:アウトソーシング料金の見直し
:需要予測精度の向上
:アイテム数の整理
:モーダルシフト(地球温暖化対策として自動車から大量輸送可能な鉄道・海運などに転換すること)
:平準化
:物流サービスの適正化
:取引単位(配送単位)の大ロット化
:包装容器の再利用、通い箱の利用等
:人員削減
宅配便運賃の上昇は避けられない様相だ。物流をどのように合理化し、コスト削減につなげるかが重要な問題となってきた。
以上