レポートNo103 2014.2.20  <倉林 勝>

デジタルプリンター

手づくり市場は相変わらず「手のぬくもり」をベースにして、アナログの道具から抜け出す気配が見えない。しかし、アメリカでは多くのデジタル機器が手作り市場に導入され、日本においても機運が高まりつつある。3Dプリンターは低価格機種が出始め、一般家庭への導入が期待され、家庭用ではないがデジタル捺染プリンターも幅広く普及してきた。手作り市場もデジタルリテラシーの有無が今後を左右しそうだ。


(A)デジタルマシーン・3Dプリンター他

デジタル時代といわれながら、手作り市場は相変わらず「手のぬくもり」をベースにしている。

アメリカでは多くのデジタル機器が使用されているにも関わらず、日本では「手」が全てでミシンを除けばアナログの道具を使用することから抜け出す気配が見えない。

しかし、デジタル機器は急速に発展し、手作りの世界に入りつつある。デジタルリテラシー(デジタル能力)の有無が手作り市場において優劣を決めるキーとなりつつあるようだ。

 

クリス・アンダーソンが著書「メーカーズ」の中で、3Dプリンターを紹介し、いずれ10万円を切る3Dプリンターが出現し、DIYによる製品デザインや開発を武器に、ガレージでモノ作りに励むメーカーズ世代が、製造業の復活を後押しすると書いたのは2012年10月であった。

アメリカではオバマ大統領が3Dプリンターを全国の小・中学校への導入を計画し、先の一般教書演説でも3Dプリンターに言及し、製造業ハブを立ち上げ積層構造に焦点を当てると発表した。

 

日本においても3Dプリンターは急速な動きを見せている。

最近の新聞やTVには、

*京都国立博物館が犬山市で出土した三角縁鏡を元に、3Dプリンターを使って精巧なレプリカを作り、実験したところ裏面の文様を映し出す「魔鏡」だったことが分かった。実物を研磨して実験することが出来ないために3Dプリンターを使用した。

*ホンダは歴代試作車の外観デザインの3Dデータを無料で公開した。専用サイトからダウンロードすれば家庭用3Dプリンターで模型を製作することができる。これはホンダのファン作りの一環としている。

*アジアメーカーが10万円以下の安さを特徴とした3Dプリンターを家電量販店などでこの春から展開する。台湾のメーカーが6万9800円で、シンガポールのメーカーが9万9800円で販売を計画し、装飾品やフィギアなどを手軽に作りたい個人や中小企業の需要を取り込む。

*渋谷にある「しぶや図工室」の案内。シェアスペースとしても活用できる、3Dプリンターを中心とした教室での活用風景など新聞やTV等で報道される。3Dプリンターのニュースが目につくようになってきた。

*ヨドバシ秋葉原では低価格(16万8000円)の3Dプリンターコーナーを設置し、制作されたフィギアやチェスの駒、アクセサリーなどが展示され、同時にABS樹脂やPLA樹脂が夫々15色ほど販売されている。CubeXと呼ばれる商品はヤマダ電機などでも扱われている。

3Dプリンター以外にも「手作り市場」で活用できるデジタルマシーンが幾つかある。

ブラザーはオリジナルスタンプが作れる「スタンプ作成機」を販売し、今年の全米ホビーショーでは「カッティングマシーン」を発表した。

カッティングマシーン「Scan N Cut」は模様や文字のデザインが内蔵され、オリジナルのデザインも作成でき、紙にも布にも対応できる。アップリケやキルトピースの作成などにも活用でき「手作り市場」に向けて販売している。国内ではミシンショップや手芸センタードリームでも扱っている。

ブラザーはTシャツなどにプリントできる「ガーメントプリンター」も販売している。参考価格は155万円程度だから、リースにすればコピー機程度で、無印良品のカスタマイズサービスにも利用されている。

 

(B)デジタルプリンター

デジタル捺染プリンターの導入も増えつつある。現在は新たに生まれつつあるワーキングスペースなどで個人も利用できる。また、企業の企画部門などでのサンプル作りなどでも活用されつつある。

高価格大型のプリンターから、かつてのカラーコピー機程度の価格で中型のものまで幅広くラインアップされてきた。

 

素材も天然繊維から化合繊繊維まで幅広く対応し、染料や顔料にも対応できる。

従来のプリントはスクリーンプリントやマシーン(ローラー)プリントなどデザインと色を「型」にしてプリントするため、色数に制限があり、また、ある程度のロットを必要としてきた。

デジタルプリンターはこれらの制限を開放し少ロット、多品種、短納期のモノ作りに適し、多色やグラデーションなど無限に近い色を表現することができる。

量に対する価格対応では、従来のプリント製法にかなわないが、多様化に対応する、新たな価値を見つけつつある。

 

デジタルプリントは主にTシャツなどのプリントに使われる顔料プリントとテキスタイルに使われる染料プリントに分けられる。

プリンターは双方に対応できるが、顔料プリントの場合は顔料インクに接着剤が入っているためにノズルが詰まりやすく、専用にした方が良いようだ。

染料プリントは生地の前処理や後処理があるため、顔料プリントに比べ処理の工程と時間がかかるが、染料の種類(反応染料、酸性染料、分散染料)によって多くの素材に対応でき、発色や風合い、染色堅牢度に優れている。

 

デジタルプリントはデザインを画像処理し、前処理(にじみ抑制のための薬剤処理)した生地にプリントする。その後、後処理(蒸しあげて発色を高める)して完成となる。

画像処理はデザイン、テキスタイルデザインだけでなく、例えば子供の書いた絵や古い意匠権がなくなったような生地、あるいは現在の生地の色変更、カメラ撮影した画像などを、イラストレーターやフォトショップなどのソフトでパソコン内で加工しデータ化する。

前処理と後処理はプリンター販売会社が設備を保有したり、専属の加工場などを持ち対応してくれる。

特定の素材を前処理した生機で保有すれば、前処理の時間は省くことができる。

前処理した生地にデジタルプリントをした段階では、色のイメージが違う。後処理をして初めて本来の色となるために、変化のカラーチャートなども用意されている。

 

(株)ジューキ デジナ・プリントシステム

ベビーロックで業界にも馴染みの深い(株)ジューキが昨年10月からデジタルプリンターの販売を開始した。

武藤工業(株)(MUTOH)・・・インクジェットプリンター開発・製造、プリンターメンテナンス、インク開発、RIP(画像を解像度に応じて画素の集合に変換する)ソフト開発などを行う。前掲の3DプリンターCubeXも武藤工業製である。

(株)デジナ(Digina)・・・インク開発・RIPソフト販売、カラーマネジメント、デジタル捺染サービス、後処理・前処理、デジタル捺染を活用した商品開発。

(株)ジューキ・・・デジタル捺染システム販売(プリンター本体販売・メンテナンス、デジタル捺染プリントサービス販売)、デジタル捺染を活用した商品開発

上記3社の協働により、今回のデジタルプリンターが販売される。

 

本体重量は約210㎏で普通の事務所の荷重に対応でき、電源もAC100~120V、50/60Hzで家庭用電源に対応できる。

標準価格はプリンター、巻き取り装置、配送・組立・現地調整費、プリントシステム料、インク供給システム、RIPソフト・ソフトウェアトレーニング(1日)等を含んで475万円である。少し前のカラーコピー機程度の価格となっている。(リースにすれば月額10万円以下だろう)

使用インクは8色、最大布幅は1625㎜、最大プリント幅は1605㎜である。

プリントされた生地は、耐光3級以上、洗濯堅牢度4~5級などで通常の生地と遜色はない。

 

過日、ジューキ本社でデジタルプリンターを見学させてもらった。

(プリンター本体)
(プリンター本体)
(後処理前の綿プリント)
(後処理前の綿プリント)
(カットアウトのプリントと製品) 
(カットアウトのプリントと製品) 
(日本画から写したプリント)
(日本画から写したプリント)
(カラーチャート)
(カラーチャート)
(後処理後の綿プリント)
(後処理後の綿プリント)
(100年以上前の着物からデザインを取った)
(100年以上前の着物からデザインを取った)

生地の前処理・後処理は(株)デジナの新潟工場で行われる。

デジタルプリンターはデータの作り方から、生地の送りの問題、カラーマッチィングなどの技術が必要だが、プリンター販売会社で教育も行っており問題はなさそうだ。

 

ジューキ デジタル捺染サービス

ジューキはデジタル捺染サービスも行い、一般消費者にも対応している。

デザイナーや学生などが主に利用しているとのことだ。ファッションショー用のオリジナルデザインや卒業制作用のオリジナル生地、オリジナルカーテンなどの需要があるようだ。

なかには、オリジナル生地で製品を作りネットで販売後、受注数に応じてプリントする人もいるという。

 

前処理のされた生地が用意されている。

綿は双日ファッションの10/8オックス、30コーマバーバリー、50コーマブロード、ダブルガーゼ、

ポリエステルは宇仁繊維小紋工房の平織、タフタ、サテン、ちりめんの、合計8種類が在庫されている。

価格は綿素材で生地代込、1~4mが4000円/m、5~9mが3800円/m、10~19mが3600円/m、ポリエステル素材は生地代込、1~4mが4500円/m、5~9mが4200円/m、10~19mが4000円/mとなっている。(消費者渡し価格)

ただし、持ち込み生地は別料金となっている。

フォトショップやイラストレーターで作成したデータ、デジタルカメラやスキャナーで作成されたデータなどを送信すると完成品になって届けられる。

小売店が一般消費者から受注して、ジューキで加工することも可能とのことである。

 

私ごとだが、十数年前に当時世界に20台しかないというイスラエル製のデジタルプリンターでシルクのプリントをつくったことがある。

イスラエルはハイテク機器の有数の生産国で、このプリンターを使ってエルメスがスカーフ用のプリントを作っていた時代だ。まだ、反応染料がなかったのか、綿素材はプリントできなかった。

綿素材はセーレンのビスコテックスを利用してインテリア用の生地を作ったが、今ではプリンターも安くなり、染料も各種揃い、簡単に多くの素材に対応できるようになった。

プリントの企画だけではなく、消費者の要望に合わせたいろいろなサービスが提供できるようになった。

活用方法によって「手作り市場」に生かすことができるだろう。

 

以上

 

問い合わせ先 (株)ジューキ 0332652851 デジナ・プリントシステム担当