レポートNo102 2014.2.13  <倉林 勝>

消費増税直前

4月1日からの消費増税に対する駆け込み需要は前年末頃から始まっている。H元年の消費税導入時はバブルの最中で、駆け込み需要の反動は比較的早期に終わったが、H9年の増税時はバブル崩壊後の低成長期に実施され、健康保険の自己負担率引上げ、特別減税の廃止、10兆円に及ぶ緊縮財政なども重なり、駆け込み需要の反動減は長期にわたった。金融機関の破綻も相次ぎ、デフレ時代に突入する。H9年の総務省家計調査、チェーンストア売上統計、経産省商業販売統計、内閣府経済白書などから駆け込み 需要とその反動の動きをレポートする。


4月の消費増税までわずかな期間となった。

小売業は内税方式か外税方式かを決めて準備に入っている。外税方式を取る小売業は既に表示方法を税抜の本体価格に切り替え始めたところも出てきた。税抜価格であることを表示するPOPなども目につくところに表示され、商品には本体価格と税が記された値札に変わっている。

最近入ったレストランのメニューも外税方式に変更され、税は未掲載だが税が別につく旨の案内が記されていた。

 

内税方式の場合はタバコや郵便物、初診料などの価格は既に発表され、4月から全ての価格が上昇することが身近に感じられるようになってきた。

住宅や車など高価格なものの駆け込み需要は大方終わったようだが、ここにきて家具や家電などに動きが見られるようになった。

百貨店の家具は5ヶ月連続で増加し12月は前年比12.7%増となり(百貨店販売統計)、機械器具小売業も地デジ特需の終了から不振が続いてきたが、ここ3ヶ月はプラスに転じた(業種別販売統計)。

一般消費財も消耗品や賞味期限の長い食品等を中心に、直前にまとめ買いをしてもらうような販促活動も活発になってきた。

需要を先取りすることで、4月以降の消費がどのように変化するのかに注目が集まる。

アメリカFRBの出口戦略が始まり、新興国の通貨下落などが株価に影響し、1月の日経平均もNYダウも月初から大きく下げて終わった。東証1部上場の時価総額は1月の1か月で27兆円減少したが、この先どのように変化し消費に影響を与えるだろうか。アベノミクスも第3の矢がもたつき正念場を迎えつつあるようだ。

増税によって物価が上昇すると家計の購買力は、それに見合う所得の増加がなければ実質的に家計消費を減少させる。増税による物価の上昇によって消費減少ということになれば経済に大きな影響を与える。

 

(下記は大和総研資料を参照した)

一般的に、消費税が1%引き上げられると、消費者物価は0.7%程度上昇するといわれる。

消費税は土地の譲渡・賃貸、金融・保険、家賃や医療・教育・福祉などは対象外である。課税対象となる消費者物価を構成する品目は除外されるものを除くと70%程度となっているためである。

仮に、課税対象品目の全てが消費税引き上げ分を小売価格に転嫁すれば、今回の3%の増税によって、物価は2%程度押し上げられることになる。

日銀の物価上昇目標は黙って達成となるが、増税が景気に与える影響を見ながら、金融緩和などの措置を取ることになるだろう。

1997年(H9)4月の増税時(3%⇒5%)に増税分はどの程度転嫁されただろうか。

増税のタイミングで増税分が転嫁された割合を見ると(家計消費の10大項目)、「食料」、「教養娯楽」、「家具・家事用品」では半数を上回る品目で増税分を小売価格に転嫁できた。特に、「食料」、「教養娯楽」では増税幅を上回る価格転嫁(便乗値上げ?)が多くの品目で見られた結果、全体としても増税幅の2%を上回る価格上昇となった。

「住居」、「教育」、「保険医療」は非課税品目が多く含まれるため、価格転嫁は進まなかった。また、「被服及び履物」は、増税分が価格転嫁された品目の割合は3割程度と低く、増税前後の物価上昇率の変化も他の項目に比べて小さい。値上げによる需要の急減を危惧して、増税分を小売店が吸収するという行動は、衣料品で特にその傾向が強かった。

 

前回の増税時に消費がどのように変化したかを見る。

 

A)平成9年(1997年)消費支出の前年同月比実質増加率(全世帯)

(資料 総務省家計調査年報)

日本の消費税はS53年大平内閣時に一般消費税導入案、S61年中曽根内閣時に売上税構想が浮上したが共に成立させることが出来なかった。

S63(1989年)年竹下内閣時に消費税法が成立し、翌H元年4月1日から3%でスタートした。

H6年細川内閣時に国民福祉税7%構想が浮上するが成立せず、村山内閣時に内定していた消費税率引上げ(3%⇒5%)を橋本内閣がH9年(1997年)4月1日から実施した。

H24年野田内閣時に消費増税を基本とする社会保障と税の一体化改革関連法(社会保障の充実・安定化と、そのための安定財源確保と財政健全化の同時達成を目指す)が成立し、H25年安倍内閣時に消費税率を5%から8%に引上げることを決定し、今年(H26)4月1日から実施予定となった。

 

消費税導入時のH元年1月は増加、2月は減少、3月は消費税導入を控えた駆け込み需要もあって大幅な増加となった。4月・5月は前月の反動による需要の低下が見られたが、6月は増加、7月・8月は減少となったが、9月以降は増加となった。

H元年(1989年)はバブルの最中でGDP7.3%増加、翌平成2年も8.6%成長し、バブル崩壊の気配も感じられない時であった。

H4年(1992)に株価は1万4309円の低水準となり、バブル景気は終焉し、その年のGTP伸び率は2.0%まで低下した。

H9年は、1月は減少、2月は増加、3月は駆け込み需要で大幅な増加、その後反動減等で4月・5月・6月と減少した。7月は増加するが、8月は減少、9月・10月と増加するが11月・12月と減少した。

H8年に村山内閣から橋本内閣に代わり、橋本首相は「行政改革」、「財政構造改革」、「経済構造改革」、「金融システム改革」、「社会保障改革」、「教育改革」の6大改革を提唱し、金融改革や省庁再編などを行い、H9年4月1日から消費増税を行った。

同時に健康保険の自己負担率引上げ、特別減税の廃止、10兆円に及ぶ緊縮財政、改革にともなう金融不況等もあり、H10年のGDPは△2%となった。また、H9年には三洋証券、北海道拓殖銀行、山一証券H10年には日本長期信用銀行、日本債権信用銀行など多くの金融機関が破綻し、デフレ経済が蔓延するきっかけとなった。

H元年バブル期の消費税導入、景気低迷時であるH9年の消費増税後の家計消費の動きは、その時の景気動向に左右されることがわかる。

消費税引上げ前後の四半期における消費支出の前年実質増加率を見ると、60歳以上世帯では他の年齢階級ほど駆け込み需要は見られず、反動減も見られない。

30歳未満から50歳代の世帯では、概ね世帯主の年齢に比例して駆け込み需要も高まる傾向にあるが、その反動の減少幅は、30歳未満の世帯で最も大きくなっている。

耐久財(耐久消費財)・・・耐用年数が比較的長い商品。原則として耐用年数が1年以上で比較的購入価格が高いもの。(例)電気製品、家具、自動車

半耐久財(半耐久消費財)・・・耐用年数の比較的短い商品。(例)繊維製品、衣類、履物、靴、鞄

非耐久財(非耐久消費財)・・・耐久性の無い商品。原則として想定耐用年数が1年未満または比較的購入価格が低いもの。(例)食料品、飲料

 

財・サービス区分別に消費支出を四半期別に前年比を見た表である。

H9年1~3月期を見ると、財ではいずれも駆け込み需要の影響が見られる。なかでも半耐久財で最も高い伸びとなっており、8年10~12月期に伸びも高かった耐久財がそれに続いている。

4~6月期をみると、財ではいずれも反動減の影響が見られ、特に耐久財で減少幅が大きくなっている。サービスでは、1~3月期、4~6月期ともにほとんど影響はみられない。

H9年の消費支出は399万9759円で前年比101.4%であるが、生地・糸類は102.4%となっている。

生地・糸類は耐久財や半耐久財の駆け込み需要の影響からか、1~4月までは前年を大きく下回り、駆け込み需要はマイナスに作用したようだ。5月からは順調に上昇したが、10月からは再び低下する。

7~9月の増加要因、10~12月の減少要因は不明だ。

H9年に300店舗を超えたユニクロは、H10年(1998)10月に1900円のフリースキャンペーンで話題を呼び、11月に原宿に都心型店舗を開店し快進撃を開始する。消費税増税後に価格戦略を強烈に打ち出した企業でもある。

個人的な考えでは、ユニクロの登場・劇的な成長に伴い衣料品価格が劇的に低下し、手作り市場は縮小に向かい始めたと思っている。

生地・糸類はH9年に若干の増加となったが、それ以降は毎年減少していくことになる。

H9年4月の増税前駆け込み需要はH8年の12月頃から始まり、H8年は既存店ベースで増加したものの、増税後から減少する。

H8年は主要3分類はマイナスであるが、サービス(チケット販売、キャッシング、DPE、クリーニング等)やその他が大きく増加したことで販売総額は増加した。

駈込み需要は前年の12月に大きく増加する。12月の衣料品は紳士144.3%、婦人122.6%、その他・洋品136.1%、住関品は日用雑貨148.6%、医薬・化粧138.3%、家具・インテリア132.9%、家電製品144.8%、その他商品155.8%となっている。

H9年3月は、駆け込み需要はあったものの前年の12月には及ばない。

3月は食料品が104.9%であるが、生鮮品は99.2%、その他食品が109.3%である。保存の効く商品が買われたのであろう。衣料品は105.3%であるが、紳士衣料106.1%、婦人衣料101.2%、その他・洋品108.0%である。紳士衣料と下着やパジャマなどの実用衣料などが買われたようだ。住関品は日用雑貨品107.3%、医薬・化粧品114.2%、家具・インテリア116.7%、家電製品146.7%、その他商品135.4%である。

現在イトーヨーカ堂が通常扱っていない家電製品の特別コーナーを作ったのも過去の例を参考にしたのだろう。

小売業売上はS55年以降、H5年を除いて毎年増加してきたが、消費増税のH9年からH14年まで6年間減少し続ける。

増税の影響だけでなくデフレの影響も大きなものがあるだろう。

織物・衣料・身の回り品小売業売上はH4年(1992)のバブル崩壊以降、売上は価格低下の影響もあってH15・16年を除きH21年まで減少を続ける。

3月の駆け込み需要は機械器具小売業(主に家電)、自動車小売業、各種商品小売業(百貨店、スーパーなど)の順に高いが、その反動も大きい。飲食料品などの消耗品は駆け込み需要も少ないが反動も少なく、年間売上は各種商品小売業と共に大きな減少は見られない。

織物・衣服・身の回り品小売業は駆け込み需要はあるものの、全体に低調に推移している。

 

H8年、9年と合計は増加するが、その後はH24年まで減少して行く。

紳士服・洋品はH17年を除き減少しH24年に増加する。婦人・子供服・洋品はH23年間まで減少しH24年に増加する。身の回り品(バック、靴、アクセサリーなど)はH10・11年と減少するが、その後は増加したり減少したりするが、大きな変動は少ない。

前年の10月くらいから始まる駆け込み需要は3月にピークを迎え、4月は一気に反動減となるが、その後の動きはカテゴリーで違いが出る。飲食料品は変化が少ない。

消費税導入のH元年前後は国内総生産(GDP)、雇用者報酬総額、市街地価格指数も大きく増加している。その上、政府最終消費支出も増加し、バブルの真っ最中であった。東証1部時価総額はH元年に590兆円を超えたが、H2年10月には株価が2万円を割れ、H4年にはバブルが崩壊した。

このような経済環境のなかでは、増税前の駆け込み需要の反動も軽微に終わった。

しかし、H9年の消費増税時はバブル崩壊後の低成長期で、GDPの伸び率も低調であり、雇用者報酬総額も低調な増加である。しかも、政府最終消費支出も低調である上に、市街地価格指数もマイナスとなり、東証1部時価総額も減少していく時期と重なり、H10年から本格的なデフレ時代に入る。この時期の増税は駆け込み需要の反動を長く続かせることとなり、低価格を打ち出す新たな業態(100円ショップ、ディスカウントストア、SPAなど)が急成長し既存の大型小売業の破綻(マイカル、そごう、長崎屋等)が続出することとなった。

 

今回の増税では、このような事態(反動減)に陥らないように政府は5兆円を超える補正予算を組み、雇用者報酬総額が増加するよう企業にベースアップ等の要望を強く打ち出している。

また、大幅な金融緩和、政府支出の増大などのアベノミクスにより、株価は上昇し時価総額も増大している。

そして、消費増税に対し駆け込み需要にも、その反動にもあまり影響されない高齢者は当時に比べ増加している。65歳以上の人口比率はH元年11.61%であったが、H9年には15.66%となり、H25年には25.20%まで拡大した。

H9年を中心とした消費増税前後の動きを見てきたが、今回の増税の影響が当時と同じように出るとは思えない。自動車や家電は反動による大幅減少を見込んでいるようだが、影響は軽微とみている企業も多い。

どのように対応するか、各企業の戦略が問われている。

 

(E)消費税転嫁対策特別措置法

今回の消費増税に対しては、「消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関する特別措置法」の時限立法が制定された。

H25年10月1日に施行され、H29年3月31日まで適用される。

平成26年4月1日及びH27年10月1日に予定される消費税率の引き上げに際し、以下の特別措置を講ずることにより、消費税の円滑かつ適正な転嫁を確保することを目的として制定された。

(1)消費税の転嫁拒否等の行為の是正に関する特別措置

減額、買いたたき、商品購入・役務利用又は利益提供の要請等の禁止

(2)消費税の転嫁を阻害する表示の是正に関する特別措置

消費税は転嫁しません、消費税は当店が負担しています、消費税率上昇分を値引きします、消費税相当分を、次回の購入に利用できるポイントを付与します等の禁止

(3)価格の表示に関する特別措置

税込価格(内税方式)、税抜価格(外税方式)両方の採用

(4)消費税の転嫁及び表示の方法の決定に係る共同行為に関する特別措置

事業者または事業団体が行う転嫁カルテル・表示カルテルが独占禁止法の適用除外となる(公正取引委員会に対し事前届け出が必要)

 

この法律によって、個々の企業や団体ごとに価格の対応が違い、混乱が起こる可能性がある。

H25年10月1日以降、消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保や事業者の値札の張り替えなどの事務負担に配慮する観点から、表示価格が税込価格であると誤認されないための措置を講じていれば、「税込価格」を表示しなくてもよいとする特例が設けられ、価格の表示方法は各企業、各団体ごとにバラバラに表示されることとなった。

 

○○円(税込)、○○円(税込価格)、○○円(本体価格)、○○円+税、などの表示のほか、個々の値札等においては「○○円」と税抜価格のみを表示し、別途、店内の消費者が目に付きやすい場所に、明瞭に、「当店の価格は全て税抜価格になっています」という掲示を行うことも可能となった。

税込価格か、税抜価格かを店内にはっきり表示することが消費者の混乱を防ぐ道となった。

しかし、これらの措置は3年後のH29年3月31日までの暫定的措置のため、その後は従来の内税方式に変更される可能性があり、統一基準となるだろう。

 

以上