レポートNo72 2013.2.14  <倉林 勝>

メーカーズ

クリス・アンダーソンの3部作、ロングテール、フリー、メーカーズを簡単に解説する。30年前に発表された、アルビン・トフラーが予言したプロシューマーの時代が、デジタル工作機械の出現でついにメーカーズとして出現した。特に、ホビークラフトの変化について記載する。


MAKERS (クリス・アンダーソン)

デジタル機器で誰でもがクリエーターになれる

 

①「第3の波」

今からおよそ30年前の1980年(S55)にアメリカの未来学者アルビン・トフラーが「第3の波」を発表した。農業の出現が第1の波で、産業革命が第2の波であるが、今、人類がかつて経験したことない大変革が密かに進行しているとし、これを「第3の波」とした。

「第3の波」の中でトフラーは「生産=消費者(プロシューマー)の出現」の時代が来たと発表する。

(Prosumer・・・Producer生産者+Consumer消費者の造語)

 

*第1の波の時代は、ほとんどの人々が自ら生産したものを自ら消費していた。かれらは今日的な意味での生産=消費者(プロシューマー)とでも呼ぶべきものだった。

生産と消費という二つの機能が分離したのは、産業革命以降のことであった。これによって市場や交易網が急速に広がり、生産物やサービスを消費者に届けるための、複雑な流通経路が出来上がったのである。

しかし、第2の波の時代になっても、自家用の生産が姿を消したわけではない。自分たちや、家族、共同体のために、報酬を目的としない活動は経済学者から忘れられ、経済という言葉は市場のための仕事や生産だけに限定して使われ、プロシューマーの存在に気がつかなくなってしまった。

そして、今(当時は欧米においてインフレーションによるDIYブームがおきていた)新たなプロシューマーが出現しつつあるとした。

 

*消費者が直接生産工程を動かすシステムが実現するのはまだ先のことであるにしても、技術的にはそれに必要なハードウェアは、既に開発されている。縫製工場では、コンピューターで制御されたレーザー裁断機で洋服が作られている。このコンピューターの端末を家庭の電話と結べば、消費者は自宅にいながら、はるかかなたのレーザー裁断機を動かし、自分の注文通りの洋服を作ることも、理論的には可能である。

消費者が活用できる「生産の道具」そのものも、大きく変わってくる。エレクトロニクス機器の大半は収入

を得るための労働に使われると同時に、自分の生活をまかなうための物品やサービスにも用いられる。

こうしたシステムを通じて、第1の波の社会の主役であったプロシューマーが、またもや経済活動の主役となる。しかも、第3の波のプロシューマーは、高い科学技術水準に裏づけされているのだ。

消費者が生産に、より深く関与するようになると、生産者と消費者の区別は消滅してしまう。これまで、生産される商品の外側にいた消費者は「アウトサイダー」から「インサイダー」に転じ、そこではプロシューマーが主役となる。

やがて、これが根本的な社会変革を惹き起こす。はじめは、この変革は冷淡に受け止められる。しかし、やがてはだれも阻止することのできないスピードで、市場という、現代社会を支えるもっとも重要な機構を崩壊させるのである。

 

*プロシューマーのライフスタイルも変化し、余暇とは、つまるところ、自分自身のために商品やサービスを生産する活動、つまりプロシューマー活動である。

(1980年 日本放送出版協会発行 第3の波 アルビン・トフラー)

 

今日、このようなプロシューマーと呼ばれる人たちが急速に出現しつつある。

日経MJでは今年1月1日号の1面特集で「自作自売の時代」と表現した。

そして、トフラーから約30年後、今日的課題としてクリス・アンダーソンが「MAKERS」を昨年秋に発表し、これに関連する記事が新聞や雑誌で多く見かけ話題になっている。

 

②「Long Tail」&「Free」

アメリカのジャーナリストであるクリス・アンダーソンはビットの世界(デジタルの世界)が何を変化させ、どのような影響を与えるかを書き、われわれに示唆に富む刺激を与える。

最初に「ロングテール」発表し、次に「フリー」、そして今回「MAKERS」を発表した。

 

The Long Tail・ロングテール・・・売れない商品を宝の山に変える新戦略(2006年 早川書店)

イタリアの経済学者パレートが1896年に発表した、経済において全体の数値の大部分は、全体を構成するうちの一部の要素が生み出しているという説を「パレートの法則」といい、一般的には「80対20の法則」といわれる。

売上の80%は20%の顧客が生み出し、商品売上の80%は全商品の20%で生み出すという。

「ロングテール」では、ビットの世界では「80対20の法則」が当てはまらないとした。

 

*これまでのように物理的・時間的なスペースが限られていた時代では、その限りあるスペースには少数のヒット作に占められ、多くのニッチ商品はごく一部の熱心なユーザーによって支えられているのみだった。これを端的に示すのが「80対20の法則」である。

だが、パソコンとブロードバンドが普及し、アマゾン、グーグル、iTunes Music Store(アップルの有料音楽配信サービス)などが登場したことで、市場のあり方は劇的に変化した。ニッチ商品の認知・購入機会は爆発的に増加し、全体としては実際に大資本のメガヒット狙いの商品と対等に張り合えるようになった。このような経済では「80対20の法則」は成り立たない。あるオンライン音楽配信サービスでは、ダウンロード数で上位2割に入らない残り8割の商品が全体の半分を占め、アマゾンでも「売れない8割」が売上の1/3を占めるという。これらのオンライン店舗では、売れ行き順に商品を横軸に並べ、販売数を縦軸にとったグラフを書くと、そこには非ヒット商品からなる長い尻尾が現れる。これこそが「ロングテール」である。

ロングテールはどこにでもある。ウィキペディアからYouTube、ブログやSNSまで、その全てがロングテールであり、これまでのヒット作指向の文化を根底から覆そうとしている。それは生産と流通の民主化であり、物理的制約のために抑圧されていた人々の真の嗜好のすがたなのだ。

 

*ロングテール時代の姿は、①現実に全ての市場において、ニッチ商品はヒット商品よりもはるかに多い。②ニッチ商品を入手するコストが劇的に下がってきた(デジタル流通、検索技術、ブロードバンドの普及など)。③消費者が必要性や興味にあわせてニッチ商品を見つけられるような方法の提供(レコメンデーションや人気ランキングなど)。④選択肢が幅広く多用で、なおかつそれを整理するフィルターの存在。⑤ニッチ商品を全部足せば、ヒット市場に肩を並べるほど大きな市場になる可能性がある。⑥以上の要素が揃えば、流通経路の狭さ、情報不足、商品スペースの限界に影響を受けない自然のロングテール曲線が現れる。

ロングテールは不足の経済の影響を受けない文化の真の姿である。

 

*ロングテール・ビジネスを発展させるコツは、①全ての商品が手に入るようにする。②欲しい商品を見つける手助けをする。の2点である。

(ロングテールからの抜粋)

 

ロングテール・ビジネスの最大手であるアマゾンは効率的な検索機能と強力なレコメンデーション機能を持っている。

レコメンデーション(Recommendation・推薦)は過去の購入履歴や閲覧履歴から顧客一人一人の趣味や嗜好傾向を探り出し、それに合致すると思われる商品をメールなどを使い、重点的に顧客一人一人推奨する機能である。

アマゾンで1回購入すれば毎日「これはどうですか」とレコメンデーションのメールが入る。

 

FREE・フリー・・・無料からお金を生みだす新戦略(2009年日本放送出版協会(NHK出版))

世の中には「無料」があふれている。街を歩けば、地域の情報誌、求人広告誌、住宅情報誌、はてはゴルフ場案内誌などかつて有料なものがタダで配られる。

デジタルの世界では無料が普通となっている。スマートフォンにも無料アプリが溢れているし、良く利用するウィキペディアも無料だし、クックパッドのレシピ検索も、新聞記事も無料だ。

渋谷パルコには10坪の各地域情報誌のコーナーがあって、全て無料である。

すこし前まで「ただほど怖いものはない」と言ったが、今はタダが普通と思われるものが増殖している。

「FREE」は無料の歴史から、無料の仕組みを解説する。

 

*フリーの歴史は古く、1900年代初めに使い捨ての刃がついたT型安全カミソリを考案したジレットは20年間売れない時代を送った。ジレットは大幅な値引きをして陸軍に数百万本を売ったが、それは兵士がこのカミソリを使う習慣を身につけさすものだったが、なかば無料で配ったジレットはやがて替え刃の需要を生みだす。

いまや、数十億枚の替え刃を売ることで、このビジネスモデルは全ての産業のお手本となった。携帯電話をタダで上げて、月々の回線使用料をとる。プリンターを安く売って、インクで利益をあげるなど、多くの企業がこのモデルを使用している。

そして、21世紀のはじめにいる私たちは、新しい形のフリーを開発しつつある。新しいフリーは、トリックではなく、モノやサービスのコストをほとんどゼロになるまで下げるという、驚くべき新たな力によっている。20世紀のフリーは強力なマーケティング手法になったが、21世紀にはフリーがまったく新しい経済モデルになるのだ。

この新しい形のフリーは、モノの経済であるアトム(原子)経済ではなく、情報通信の経済であるビット経済にもとづいている。デジタル時代のユニークな特徴は、ひとたび何かがソフトウェアになると、それがかならず無料になることだ。

 

*ビジネスで使われる「無料」には多くの意味がある。

「一つ買えば、もう一つはタダ」は二つ買うと半額になる意味だ。

「フリー・ギフト(おまけ付)」は商品の中におまけのコストが含まれている。

「送料無料」は商品価格に送料が組み込まれている。

「無料サンプル」は単純なマーケティング手段だ。

広告収入で運営されるメディアの世界(ラジオとかテレビ)は、消費者がコンテンツを無料で得るために第三者(広告主)が費用を払う三者間市場だ。

そして、新しいモデルを象徴する真の無料がある。その大部分は、限界費用がゼロ近いオンライン上のデジタル経済に存在する。グーグルが提供する大部分のサービスは無料だし、広告も載せないか、載せるとしてもコンテンツではなく、ソフトウェアやサービスに適用するという新しい方法をとっている。

さらに、すばらしいギフト・エコノミー(贈与経済)がある。それは、ウィキペディアなど、評判や注目、自己表現などの金銭以外のインセンティブによって成り立つ経済だ。

これらのフリーは4種類に大別することができる。

 

*フリーのビジネスモデルは大きく4種類に分けられる。

①直接的内部相互補助

無料なもの・・・消費者の気を引いて、ほかのものを買ってみようと思わせる商品なら何でも

無料対象者・・・結局はみんなが、なんらかの方法で喜んで金をはらう。

えてして価格は原価ではなく、心理学をもとに決められる。あるモノを無料かそれに近い値段にし、それで客を呼んで、健全な利益を出せる他の魅力的なモノを売ろうとする。

ジレット、スーパーの特売、無料教室、無料体験など。

②三者間市場

無料なもの・・・コンテンツ、サービス、ソフトウェアなど

無料対象者・・・誰でも

全てのメディアの基本。メディアが制作物をタダかそれに近い価格で消費者に提供し、そこに参加するために広告主がお金を払う。広告主は広告を消費者に届けるためにメディアにお金を払い、消費者はその代わりに広告主を支援する。その費用は商品の代金に乗せられた形で消費者が支払う。

広告収入でまかなう仕組み、クレジットカードなど。

③フリーミアム

無料なもの・・・有料のプレミアム版に対する基本版

無料対象者・・・基本版のユーザー

販売促進用の無料の試供品は実費がかかるので、生産者は少量しか配れなかった。一方、デジタル製品においては、無料と有料の割合はまったく異なる。オンラインサイトには5%ルールがある。つまり、5%の有料ユーザーが残り95%の無料ユーザーを支えているのだ。それでもやっていける理由は、95%の無料ユーザーに対するコストが、無視できるほどゼロに近いからだ。

無料電話のスカイプ、日本の例ではゲーム(特別な武器などは有料)、クックパッド(レシピ投稿などは有料)など。

④非貨幣市場

無料なもの・・・対価を期待せずに、人々があげるものすべて

無料対象者・・・誰でも

この中には、贈与経済、無償の労働などがあるが、うながすものは、評判や関心であり、それよりは目立たないが、表現、喜び、善行、満足感、あるいは私利である。

博物館、美術館(補助金と寄付)、代表例がウィキペディアなど。

日本においても、ボランティアが電子テキスト化し、著作権切れ作品を公開する「青空文庫」などがある。

(フリーからの抜粋)

 

③「MAKERS」・・・21世紀の産業革命が始まる(2012年NHK出版)

「MAKERS」はクリス・アンダーソンが昨年秋に出版した最新刊である。これ以降、日本経済新聞や日経MJ、あるいは経済雑誌などで大きく取り上げられるようになった。

特に、今年の日経MJ1月1日号は「自作自売の時代」を1面に特集し、東洋経済1月12日号(本年第1号)ではメーカーズ革命を特集とした。

 

*著者の祖父はアマチュアの発明家であったが、生産設備を持たなかったことで起業家にはなれなかった。しかしWEBの発達とデジタル機械により、生産手段が民主化され、誰でも発明家から起業家への道のりは、もう存在しないといえるほど縮まった。

僕らはアトムの世界、つまり、場所やモノの存在する現実の世界に生きている。情報産業がいくら巨大になったといっても、世界経済の中ではまだ脇役でしかない。モノのロングテールの時代に入ったのだ。

 

*デジタル革命が、工房、つまりリアルなものが作られる場所にやっと到達し、工房の姿が変わるだけでなく、普通の人たちが「普通でない」工具を使ってこれまでにないことを実現できるようになるのだ。

僕らはみんな作り手(メーカーズ)だ。人間は生まれながらのメーカーズで、モノ作りへの愛情は、多くの人々の趣味や情熱の中で生きている。それは、工房やガレージやおたくの部屋の中だけのことではない。料理が大好きの人は、キッチンメーカーで、オーブンがその工房だ。植物が好きな人は、ガーデンメーカーだ。編み物、裁縫、スクラップブッキング作り、ビーズ編み、クロスステッチ、どれもメイキングだ。こうした創作活動を通じて、数百万の人々が自分のアイデアと夢を実現している。

ウェブ時代の根本的な変化の一つは、オンラインでの共有がデフォルト(コンピューターの標準の動作条件)として定着したことだ。オンラインで共有されたプロジェクトは、他者のひらめきとなり、コラボレーションのきっかけとなる。一人一人の作り手(メーカーズ)が世界中でつながったとき、ムーブメントが生まれる。アイデアはシェアされ拡散される。

「メーカームーブメント」が生みだす最大の力は、小規模でもグローバルになれる能力だ。世界が望む製品、古い大量生産モデルに添わないためにこれまで世に出なかった、優れた製品を作ることができるようになる。

 

*モノ作りがデジタルに変わると、これまで工場で行われてきたことが、個人のデスクトップや工房でも行われるようになる。

いまでは、発明や斬新なデザインを思いついたら、製造サービスサイトにファイルをアップロードして、望みの個数だけ製品を作ってもらうこともできるし、3Dプリンターのような高機能のデジタル工作機械を使って、自分で作ることもできる。バーチャルにデザインしたものを、リアリティを追及すれば、必ずリアルなもの作りに行き着くのだ。

いま、世界中におよそ1000ヶ所の「工作(メーカー)スペース・・・みんなで共有する工作施設」が存在し、驚くべき速さでその数は増えている。工作スペースの多くは地元の愛好家が開設するものだが、中には会員制スポーツクラブのようなチェーン店形式のものもある。それが、キンコーンズ(コピー、印刷、製本チェーン)の元経営幹部がはじめ、キンコーンズのようにどこでもだれでもが使えるような工房を目指している、テックショップ(TechShop)だ。

また、手作り品の職人(メーカーズ)のためのウェブ市場、エッツィー(Etsy)の盛り上がりを考えて見て欲しい。2011年には、このサイト上でおよそ100万人の売り手が、5億ドルを超える取引を行った。サンマテオのメイカーフェアには、自分の作品をシェアし、他の作り手(メーカーズ)から学ぼうと、毎年10万人が訪れる。世界中で同じようなメーカーフェアが年に2~30回は開かれる。

このムーブメントの力を認めたオバマ大統領は今後4年間で1000ヶ所の学校に、3Dプリンターやレーザーカッターなどのデジタル工作機を完備した「工作室」を開くプログラムを立ち上げた。

 

*メーカームーブメントには3つの大きな特徴がある。その3つの全てが、これまでとは違う、新しい流れだ。

①デスクトップのデジタル工作機械を使って、モノをデザインし、試作すること(デジタルDIY)。

②それらのデザインをオンラインのコミュニティで当たり前に共有し、仲間と協力すること。

③デザインファイルが標準化されたこと。おかげでだれでも自分のデザインを製造業者に送り、欲しい数だけ作ってもらうことができる。また、自宅でも、家庭用ツールで手軽に製造できる。

これが、発案から起業への道のりを劇的に縮めた。

製造業者がデジタル化し、ネットワークでつながり、ますますオープン化してくると、グローバルな製造業者でも、カスタム化と少量生産はもう無理なことではなくなる。

 

*変革の4つのツール

①3Dプリンター・・・従来のプリンター(インクジェットやレーザー)は2Dだ。3Dプリンターはスクリーン上の図形を読み取り、実際に使えるオブジェクト(物体)に転換する。溶解プラスティックを積み上げてオブジェクトを作る方法、液体や粉末の樹脂にレーザーを照射し立体に形成する方法、ガラス、鉄、ブロンズ、ケーキ飾りの糖衣などさまざまな素材を使えるものがある。

②CNC装置・・・CNC(コンピューター数値制御)ルーターやフライス盤。ドリルを使ってプラスティックや木や金属の塊からモノを削り出す。

③レーザーカッター・・・新しいデスクトップツールの中で最も人気があるのがレーザーカッターで、そのほとんどが2Dの装置だ。どんな複雑な模様でも正確にカットする。CADソフトで3Dのオブジェクトを2Dパーツに分解し、レーザーカッターで切り取った素材を組み合わせて立体的なオブジェクトを作ることもできる。

④3Dスキャナー・・・今あるものを3Dスキャナーで取り込めば、オブジェクトを描かなくても良い。ソフトウェアが作った画像を好みに応じて修正ができる。初心者は自分の頭部をスキャンし、各パーツを誇張して自分の頭のフィギュアを作る実験だ。

 

本誌には3Dプリンターを使い、ホビークラフトとしてミニチュアハウスの部品を作ったり、レゴの部品を作ったりする話もある。

ガレージからスティーブ・ジョブスが立ち上げたアップルのように次の革新的商品を作り始めたメーカーとして幾つかの事例も掲載される。トヨタとGMの合弁工場(NUMMI)を買い取り、ロボットを活用し電気自動車を作るステラ・モーターズや2.5センチ四方のカードリーダーをスマートフォントと連動させるスクエアの例など、ニッチ市場から始まり大企業に成長する可能性のある企業を紹介している。(この2社は東洋経済の特集でも写真付で解説されている)

また、「クラウドファンディング」という初期段階の資金集め方法、世界最大のカスタム製造委託サイトであるMFGドットコムなどの紹介もある。

さらに、メーカーズの台頭が生産を新興国(特に中国)に移さずにすむ規模の問題や、従来のメーカーとの違いなども語られている。

モノ作りに携わる人にとって興味ある本である。これはまた、ホビークラフトのありようも暗示している。

 

始めたばかりのメーカーズのために、本誌ではクァーキー(Quirky)モデルとエッツィー(Etsy)モデルを紹介している。

*クァーキーモデル

2009年に立ち上げた、アイデアに投票して改善のためのアドバイスを提供するウェブサイトである。

クァーキーでは、数段階の優れた公開評価をくぐり抜けて残ったものだけが商品化される。それぞれの段階でだめなアイデアが排除され、良いアイデアは更に改良される。それぞれのクァーキー商品に数百人が参加し、アイデアの提案、変更のアドバイス、好みのモデルへの投票を行っている。意外のことに、最初のアイデアの提案者だけでなく、商品化されたデザインに投票しただけの人も含めて、商品に「影響を与えた」全ての参加者が、なんらかの支払いを受ける。ほとんどの人が受け取るのは1ドルに満たない金額だが、発案者は数千ドルを受け取ることもある。

アイデアを説明して、ちょっとしたスケッを提出するだけである。

商品化されれば、クァーキー・ドットコムの売上の3割、小売店売上の1割はコミュニティーに還元され、そのうち35%が発案者に行く。試作品は全て、高性能のデジタル機器を備えたクァーキーのオフィスで作られ、たいていは中国にあるパートナー工場で製造される。

その仕組みは次のようなものだ。

:だれでもアイデアを提案できるが、それには10ドルかかる。いたずらや冷やかしを排除するためだ。

:コミュニティーのメンバーは好きなアイデアに投票し、コメントを書き込む。

:一番人気のアイデアは、次のデザインの段階に進む。発案者とクァーキーの社員の両方がデザインを提出する。最も人気のあるデザインが選ばれる。

:さらに投票によって商品名、キャッチフレーズ、機能、その他のプランディングが決まる。

:クァーキーのエンジニアが、選ばれたデザインを製造に適した形に修正し、工場と協力して生産する。

 

*エッツィーモデル

エッツィーは最大のメーカー市場である。2005年に開設されたこのサイトをいまでは1700万人を超える会員が利用し、2011年にはここで5億ドル相当の売買が行われた。2012年4月の時点では、このサイトで世界中の4000万人の消費者が87万5000人の売り手から毎月6500万ドルの品物を買っている。「モノのロングテール」向けの急成長市場となっている。

ここで販売されているのは、手作り品、それだけのことだ。いまのところ、エッツィーは芸術作品と手作り品だけを膨大な規模で扱っている。そこにはピンからキリまでさまざまな品物が集まる。高級な芸術品からかぎ針編みの小物まで出品されるが、全てが人の手によって作られたものだ。(エッツィーでは、すべての出品物は何らかの手作りでなければならないと定められているが、工具を使うことが禁止されているわけではない)。

エッツィーはメーカーたちの資金調達を助けたり、モノ作りを助けたりすることはない。手作り品とそれを作る工芸コミュニティーに特化することで、ソーシャルな付加価値をつけて手作り品を売るだけのサイトだ。

イーベイと同じく、エッツィーも売り手にとっては作品を出品し、支払いを受け取るための手軽な手段となる。売り手には、作品一つにつき4ヶ月間出品するのに20セントの出品料と売上の3.5%が課金される。

エッツィーが小売業にとって本当に役立つプラットフォームかは議論の余地がある。手作り品に限定している限り、売り手はより効率的な製造手法を使ったり、部分的に製造を委託したりして規模を拡大することがほぼできない。

エッツィーの出品者のほとんどは、お金のために出品しているわけではない。エッツィーは趣味か芸術性のためのもので、それほど儲からなくても、ファンを見つけることでやりがいにつながっている。

これを起業のきっかけにしたいと考える人もいるが、エッツィーはきっかけになっても、成長のプラットフォームにはならない。

幸い、エッツィーもまた、その方向に動きつつある。今後も工芸家のサイトであり続けながら、メイカー的な製造手法を用いて偉業拡大をめざす起業家のための場所になろうともしている。手作りルールはいずれ修正されて、人がデザインしていれば、機会製造であってもいいことになるだろう(いま、新しいルールが作られている)。

重要なのは、マイクロ製造業者を中心とした経済の原動力となりうる、新しい家内工業を育てることだ。

(メーカーズからの抜粋)

 

④ホビークラフト

日本においてもアメリカを含め増加中の「工作(メーカー)スペース」が作られ始めた。日経MJ12年11月19日号によれば、3Dプリンターを扱うイグアス(日本企業)がショールーム兼時間貸し施設の「キューブ」を開きデジタル工作機の普及に努めているとの記事が掲載される。その他、渋谷周辺に「メーカースペース」が次々とできているという。

日経MJ13年1月1日号の「自作自売の時代」では「DOWO」という言葉が広がりつつあるという。DOWA=Do It With Others(一緒に作ろう)という意味で、デジタル機器&ネット時代の創作は、アイデアや道具の交換・共有の面白さを支えるという。工作機械の進化がハードルを下げ、ネットが人を結ぶ。黙々と行う個人作業から、仲間とワイワイやる共同作業へ変化し、新たな人を呼び込むと解説する。

3Dプリンターを使い、スパナや自分の分身作り、プラレール風の玩具などが作品例として紹介される。

東洋経済1月12日号では「ものづくり系女子」を立ち上げた女性が、レーザーカッターでアクリルの板からリボンの形を切り抜き、そこに小さなLED電球を縫い付けて、ペンダントにする例などが紹介されている。

 

普段ホビークラフトというと、道具と材料を駆使して手で全てを作ると考えているが、これが変わりつつある。

ホビークラフトの中で機械(人の手意外に動力を使う)と呼ばれているのは、Sewing Machineから転化したミシンだけだ。しかし、まだ一般的ではないが機械はいろいろある。生地のインクジェットプリンターがあれば子供の描いたデザインをプリントすることができる。小型のプレス機があれば接着は簡単だ。大型のキルトミシンはアメリカのキルトショップで見かけることもある(東急ハンズ池袋店の開設時は生地売場に設置してあった)。

 

3Dプリンターがあれば、アクセサリーのパーツもボタンも自分のデザインで作れる。

3Dプリンターは安いものでも15万円くらいするが、かつて高価だったインクジェットプリンターが1万円台になったように3Dプリンターもそうなるだろう。

高額・高性能な3Dプリンターはボタンメーカーにある。3Dスキャナーで読み取り、1個から同じモノができる機械は身近なところに存在しているので空いた時間に使う方法が考えられるかも知れない。

レーザーカッターはプラスティック、金属、紙、木材等色々な素材を自在にカットすることができる。CHA展示会で見るペーパーカッターは抜き方をプレスする方法が一般的で、デザインに応じて多種の型が必要となるが、レーザーカッターなら抜き型は不要だ。

 

まだ、機械はネットワークにつながっていないが、そのうちミシンがネットにつながり、デザインをダウンロードして独自のデザインが刺繍できるようになるだろう。

手にこだわることで、ホビークラフトの創作範囲を狭め。発展の邪魔をしているようにも思える。

キッチン家電売場があるように、料理の世界も電化、機械化が進んでいるのに、ホビークラフトはまだまだだ。

 

デジタルの世界は、出版にも影響を与えるだろう。イケアのカタログは読み取りのアプリをダウンロードすれば、カタログの一部が動画になったり、場面を変えたりできる。手法の細かい部分を動画で見ることができる、クラフトブックも可能であろう。

 

日本での手作り製品売買サイトのtetoteには17万点が掲載される。また、東急ハンズやロフトではクラフト作家の作品を販売する常設コーナーがあるし、東急ハンズの新しい業態であるハンズ・ビーではクラフト作家の販売会が不定期だが良く開催されている。

デジタル機器やネットワークを通じて、ホビークラフトの世界も大きく変化する。

 

 

写真①②はカリフォルニア・オレンジ郡にある大型キルトショップ「The Calico House」のキルトマシーンである。この店には3台設置され、お客の要望にあわせてデザインしたものをキルトしたり、教室で教えたり、貸したりする。

 

写真③④はロスアンゼルス・サンタモニカにあるクラフトショップ「The Urban Craft Center」である。

この店は「スタジオ クラス ルーム」と称して、売場の倍ほどのスタジオを設置している。素材や道具の販売もしているが、主は教室である。ミシンやプレス機などの設備があり、教室とは別にサークルなどに時間貸しもしている。

小型の「ホビークラフトのメーカースペース」ともいえる。

 

日本においても多くの機械を設置し、ホビークラフトのための「マーカースペース」が求められているのではないだろうか。

最早、ただ商品を並べるだけの時代は終わりをつげ、新たな時代がきつつあると思われる。

新たなプロシューマーを取り込めるかが大きな課題だ。

 

 

以上