レポートNo22 2011.6.13  <倉林 勝>

消費の行方

東日本大震災で3月の消費は家計消費支出や小売販売額は大きく落ち込み、自粛ムードも収まり4月は改善したが、昨年の5月からの1年間を見れば低迷したままだ。新しい現実が始まっていくが、この中でネット関連だけが順調に進む。楽天もスタートトゥデイも順調そのものだ。

 

アメリカでは手作りの市場が大きく成長し2兆9000億円に達した。その中で貸しスタジオ、交流サイト、手作り作品の売買サイトなど新しい動きも多く出る。

 


3月11日の東日本大震災から消費が大きく変化したと伝えられているが、昨年5月からの1年間を見ると家計消費支出(2人以上世帯名目値)は昨年7・8月の猛暑効果を別にすると全ての月が前年比を下回っている。

小売業販売額は昨年10月頃から低調な推移だ。

特に3月は東日本大震災の影響が大きく、家計消費も小売業売上も大きく前年を下回った。

4月には過度の自粛ムードが薄らいだが回復の気配は見えない。特に被災地である東北地方と隣接する関東地方の消費支出は全国△3.0%、他の地方△2.6%に対し△3.5%と大きく低下している。

百貨店売上も関東地区△1.9%、東京△5.5%と低調で、最大消費地の関東地区の低迷が顕著である。

 

福島原発事故は発表の度に悪い方に変更され、放射能汚染は拡大し、未だに終息は程遠い様子だし、この夏の電力不足は生活様式の見直しを迫る。ソニーの個人情報漏洩事件、サプライチェーン破断のトヨタの苦戦など世界に輝いた日本ブランドの失墜も伺わせ、原発対応や政府の混乱は国の威信も落としめて行く。

放射能による風評被害の食品は、他にも大きな問題を抱えた。カイワレダイコンの関与が疑われ、多数の患者を出した腸管出血性大腸菌O-157はO-111に変わり生肉ユッケで死傷者を出し、ヨーロッパではドイツを中心に新種と思われるO-104で既に22名(6月5日現在)が死亡し、食品の安全問題は世界に及ぶ。

震災後の水等の商品不足は親切心過剰なパッケージの不足などが大きな要因ともいわれ、大震災に垣間見られる様々なことを消費者は学習した。

消費者は何が信用できるか、信用できないかを見、何が本当に必要で、何が不要なのかを考えつつあるようだ。

単に消費するモノだけでなく、生産や販売する企業、東電などの事業体、或いは政治や政党など全ての分野で密かに見直しを図っているようだ。

「全ては疑いうる」と思い始めた。

 

少子高齢化で消費の伸びが低下する傾向の中、民間消費支出は既に米国の突出したGDP比70%には及ばないが日本はおよそ60%で先進国としては平均的だ。韓国の55%、中国の36%、ロシア50%は成長過程にあるだろうが、日本の成熟社会では消費比率を上げることは難しいだろう。GDP成長にともなって総額が上がっても、比率の大きな変化はないであろう。

大震災後の品不足は解消され、過度の自粛も薄らぎ、平穏な日常に戻りつつあるがどこかに微かな変化が見える。日々の生活は「これでいいんだ」「こんなもので充分だ」というような考えから、過剰な消費からの離別が始まっているようだ。

「現実」を垣間見た消費者が消費構造を変えるであろう。

また、政治の混乱のなかで消費税増税が避けられない様相を見ながら、消費者は抑制した生活を志向するであろう。

 

チェーンストアエイジ6月1日号の大震災後の「新しい現実」のなかで、あるサラリーマンの生活の変化を上げている。

放射能汚染を回避するために・・・ジョギングをやめた。

非常時でも通じるという・・・ツイッターを始めた。

節電のため・・・こまめに電気を消すようになった。さらにTVを見なくなった。

情報収集しやすいよう・・・ラジオをより聴くようになった。

安全配慮で・・・在宅時間が長くなった。

巣ごもりで・・・2次会には積極的には行かない。外食には率先して行かない。

ストレスのため・・・酒量は増えた。

気分が晴れないため・・・洋服を全く買っていない。

これらの小さな変化が、まとまれば大きなうねりとなり、過去のトレンドや常識は覆されていく。

 

日経ビジネス6月6日号の消費者調査を見ると、震災後の意識の変化を、消費者にあらたな「気づき」が生まれつつあると記している。

震災後の消費に関する意識の変化として

備えがあまかった・・・集中リスク(オール電化等)、緊急時の備え(防災グッズ等)

社会とつながっていた・・・代金の一部を寄付し被災者支援、積極的な消費で経済活性化、馴染みの

店舗で購入し絆を感じる。

持たなくてよかった・・・リサイクルに出せるものがある、購入・保有するリスク(車・住宅等)

早く使えばよかった・・・ネットは便利(ツイッター、ネット通販等)、地デジ・ケーブルTV等の地域情報は

便利。

知らず・考えず買っていた・・・安全性表示(原材料・産地等)を確認、エコ表示(省エネ・リサイクル)を確

認。

 


大震災後「絆」の大切さを知った若い男女は結婚を望み、結婚相談所や婚約・結婚指輪の販売が好調

などと伝えられるが、消費市場での大きな変化はネット通販の拡大だろう。

東北や首都圏で水や乾電池、トイレットパーパーなどが小売店頭から無くなったなかで、需要に答えた

のがネット通販である。日用品をネットで買うことの便利さに消費者は気づき、日用品だけでなく衣料

品もネットでは百貨店、専門店、チェーンストアが苦戦のなか健闘する。


 

特に3万7000店が出店する楽天市場は日本中に点在し、首都圏等で不足する商品を関西や九州の

店舗が補完するなど効果を上げて順調な業績となった。

楽天市場本体の売上は222億1千万円(前期比108.8%)、営業利益は111億3千万円(前期比111.1%)

となった。

国内EC流通総額(楽天市場、オークション、本、ネットスーパーなどでの販売額)は前期1兆588億円

となったが、

第1四半期は2741億円、前期比113.3%となり、楽天市場の注文件数は3629万件、前期比119.9

となった。

旅行需要が落ち込む中で楽天トラベルサービスの予約流通総額は前期比113.8%と伸び、ネット通販

の好調さを物語る。

 

前期(4月から3月)の商品取扱高は571億31百万円、前期比154.2%となった。特に期末の3月は大

震災の影響で105.4%と低調であったが、他の衣料専門店に比べれば前年比を超えた。4月以降も前

期に比して高成長である。

帰宅難民経験や放射能汚染の心配、品不足などを経験した消費者はネットの便利さに気づいたようだ。

小さな変化が、少しずつ生活スタイルを変え、消費の大きな変化となっていく。

 

(B)手作り市場

日本においては衰退しつつある手作り市場もアメリカでは大きな市場として成長している。

CHA(全米ホビークラフトアソシエーション)の調査では2010年の市場規模は約2兆9000億円である。

クラフト最大手のMICHAELS STORES(マイケルズ・ストア)はウォルマート、クロガー、コストコ、ホームデポ、ターゲットから始まる全米小売業の中で80位に位置し1184店舗を展開し、約4000億円の売上である。

また、ファブリックチェーンの最大手であるJO-ANN fabric and craft stores (ジョアン・ファブリック&クラフトストア)は751店舗を展開し約2000億円の売上である。

 

5月10日日経新聞夕刊のコラム「世界の話題」ではアメリカ発として、「大量消費社会で高まる手作り熱」が取り上げられている。

簡単に紹介すると

「手づくり熱」が米国の人々の間に高まっている。昔から自宅のガレージにこもって作業する発明好きは多いとされるが、最近はごく普通の人々が手作りを楽しむようになった。モノ作りの道具を貸し、スペースを提供するショップは全米に拡大中だ。また、自分で作ったモノを持ち寄って展示する「メーカーフェア」というお祭りも規模が大きくなるばかりだ。

こうした手作り熱の背景にあるのは消費の社会的変化だと、専門家は説明している。店頭で大量生産された商品を買うよりも、もっと意味のあるものを手に入れたいと人々が感じ始めた。稚拙でも、手作り感のあるものに愛着を覚える人々が増えてきたのだ。

そんな熱を受けて、手作りしたモノを売買したり、モノ作りのコツといった情報を交換したりするサイトも、どんどん増えている。こうした人々のコミュニティーが方々にでき、大量消費社会の米国にも大きな変化がおきている。

 

1月にロスアンゼルス、サンタモニカで見たthe urban craft center Santa Monica は正にモノ作りの道具を貸し、スペースを提供し、さらに素材を提供する店であった。(No13、2月17日レポート参照)

インターネット経由で手作り品を売買するアメリカのサイト「Etsy」は月間閲覧回数が7億回を突破し、1年間の取引商品総額は1億8000万ドル(180億円)で前年から倍増した。(繊研新聞)

 

日本においても4月末に行われた日本ホビーショーには震災後の余震が心配される中で10万人を超える人が来場した。

また、秋葉原・御徒町間のJR高架下の2K540はアキ・オカ・アルチザンと銘打って手作りを重視した職人のショップが多く並ぶ新しい街が作られつつある。

雑司ヶ谷の鬼子母神境内で開催される「手創り市」は、運営主体は変わるが代々木八幡神社や世田谷観音他で開催され手作り商品の販売が行われ、作り手と買い手とが共に楽しんでいる。

日本においても既存の業界を離れたところで「新しい手作り」が生まれているようだ。

 

大震災後に「巣ごもり」傾向はますます増加しつつある。つつましく、落ち着きを取り戻していく中で「手づくり」の市場は日本においても成長拡大していくと思われる。

 

事業セグメント別売上は、プリンティング&ソリューション事業(通信・プリンター・電子文具等)約3400億円、マシナリー&ソリューション事業(工業用ミシン、産業機器等)約660億円、ネットワーク&コンテンツ事業(通信カラオケ等)約530億円、そしてパーソナル&ホーム事業(家庭用ミシン等)は約294億円、全売上の6%弱である。

家庭用ミシン販売は294億33百万円、営業利益は29億41百万円(10%)で、四半期別売上は4~6月6513百万円、7~9月7198百万円、10~12月8702百万円、1~3月7018百万円となっている。

海外を含めての売上で日本での売上はわからないが、10月~12月が最大売上期である。

 

事業セグメント別売上は家庭用機器事業(ミシン、24時間風呂等)290億円、産業機器(卓上ロボット等)37億円である。

 

23年2月期のミシン販売は、国内売上が約24%であるが、台数では11%で、圧倒的に海外販売のウェイトが高い。

ブラザーのミシン販売額294億円に対し蛇の目もほぼ同額の274億円である。ブラザーの国内販売が蛇の目と同様であれば、両社の国内ミシン販売台数は40万台ということになる。

 

2008年1月期32億円の赤字、2009年1月期5億円の赤字から2期連続して黒字化した。

2011年1月期の売上を四半期ごとに見ると、2月~4月901億円、5月~7月831億円、8月~10月968億円、11月~1月1331億円となる。第2四半期が全体の21%、クリスマスシーズンの第4四半期が33%をしめる。

 

スクラップブッキング関係、ホームデコ&シーズン商品関係が微減している。

ジェネラルクラフト(ビーズ、ケーキ、粘土、人形、レザー、ウッドメイキングなど)と子供関係が増加している。

このような傾向が今年のCHA展示会にも見て取れる。(No13レポート)

 

マイケルズを増やし、アーロンブラザーズを閉店して行く。

2011年1月期のマイケルズは23店出店し、10店を移設し、1店を閉鎖した。アーロンブラザーズは15店閉鎖した。

 

JO-ANN fabric and craft stores(米国)

決算は未発表であるが、売上高は前期1990億円から今期(2011年1月期)は2050億円程度になったようだ。

平均660坪の小型店は前期の518店舗から今期は516店舗となり、平均1000坪の大型店は228店から235店舗となった。小型店は2006年の676店舗から516店舗まで削減し、大型店は162店舗から235店舗まで拡大した。

今期の小型店は平均660坪で年商1億8千万円、年坪売上27万円に対し、大型店は平均1000坪で年商4億8千万円、年坪売上は48万円である。

小型店はファブリック中心の店舗だが、大型店はファブリックからクラフトまで扱い商品の幅が広く、男性客も多い。このようなことから大型店の効率は高い。

(1ドル=100円で換算)


以上