レポートNo39 2010.8.31  <倉林 勝>

手軽さで成長する企業、ディスカウント各社の決算を比較する。

ケビン・メイニーの「トレードオフ」によれば上質と手軽さのどちらつかずは不毛地帯に陥る。

小売業上位25社を3年前と比べると売上1兆円を超える企業は8社から5社に減り、

増収増益企業は7社しかない。

百貨店、GMSが不毛地帯でもがいている中で、増収業種はディスカウント業態だ。

しかし、ディスカウント業態の中でも成長企業は数社だけだ。それぞれの決算を比べて見る。

 


(A)Trade off トレードオフ・・・二律背反、複数の条件が同時にみたすことのできないような関係を意味する。 参考になった最近読んだ本にケビン・メイニー著のトレードオフがある。(プレジデント社・1800円) 企業や製品の成功と失敗を「トレードオフ」で解説する。上質をとるか、手軽をとるかというトレードオフの関係を、スターバックスやコーチ、ティファニー、キンドル、フェデェクスなどの事例で解説する。

 

 

 

毎日の暮らしの中で人々は、何かにつけて上質さと手軽さを天秤にかけている。

「上質と手軽の天秤」というコンセプトは何十もの企業への取材から生まれた。

 

上質さと手軽さの二兎を追うと、自社の墓穴を掘ることになりかねないことを示している。

上質=経験+オーラ+個性

上質さとは断片的なものではなく、経験全体を指す。商品やサービスにまつわる経験全体によって決まる。商品やサービスの特性のうち、見たり触ったり感じ取ったりできるものに関係しているが、その一方「オーラ」と「個性」という、とらえどころがなく、ともすれば見過ごされがちな二つの要素によっても成り立つ。

上質なもの、極上のアイテムが存在しないのは生活必需品の分野だけだ。


手軽=入手しやすさ+安さ

手軽さとは望むものの手に入りやすさの度合を表す。すぐに手元に届くか、実行しやすいか、使いやすいか、いくらかかるかなどが焦点となる。安価なもの方が多くの人々が手を伸ばせるため当然手軽だといえる。

手軽かどうかの最大の要因は価格である。価格こそ手軽さを実現する切り札といえる。

簡便性と経済性、この二つを足し合わせると、商品やサービスの手軽さがわかる。望むものを最も簡単に、最も安く手に入れられる手段を消費者に提供すれば、その企業は無敵だ。手軽な商品やサービスには個性やオーラが入り込む余地はない。


不毛地帯

上質さと手軽さ、どちらも秀逸でない、あるいは消費者にどっちつかずの経験しか提供できない商品やサービスは「不毛地帯」に追いやられる。

そこそこの質の商品やサービスは誰の心も揺り動かさず、何となく手に入り安いというに過ぎない。

テクノロジーの進歩に合わせて上質さや手軽さのハードルが高くなっていくため、不毛地帯も拡大したり境界が引き直されたりする。商品やサービスは、テクノロジーの発展に見合った改善がなされないかぎり、広がりゆく不毛地帯に呑み込まれる運命にある。


幻影(ミラージュ)

多くの企業の期待とは裏腹に、上質さと手軽さの両面で卓越することは不可能である。

この双方を満たす状況には心くすぐるものがあり、「そこにたどり着けば、素晴らしい繁栄を謳歌できるだろう」と期待をかける企業もあるが、現実には二兎を追う企業や商品は幻影を見ているに過ぎない。

経営資源や時間をムダにした挙げ句に迷走するであろう。


 

上質さと手軽さの追求に終わりはない。

テクノロジーとイノベーションの影響により、両方の水準が絶えず押し上げられるからだ。このため、今の時点でこの上なく上質な商品やサービスを提供していても、やがて新しいテクノロジーやイノベーションを携えたライバルにより、トップの座を奪われるだろう。同じことは手軽さという軸にもあてはまる。上質さと手軽さの水準は時とともに向上し、消費者もそれぞれの基準を休みなく引き上げていく。どちらかの軸に沿って絶え間ない改善を積み重ねないかぎり、時流に取り残されてしまう。

「中途半端はだめである」ということに尽きる。

差別化にも低コスト化にも不徹底で、中途半端なところで立ち往生する状態を不毛地帯と表現される。


 

上質の頂点と手軽の頂点、これらが勝ち組になる条件である。

アップルは極上のiPhoneが携帯電話市場で人々のハートをつかみ、ウォルマートは日用品をどこよりも手軽に安く購入できる場を提供して小売業のリーディングカンパニーの座を手にした。

逆に、上質なコーヒー店で成功しながら店舗を増やしすぎて上質感を失ったスターバックス、高級ブランドとして売ってきたのに誰にでも手に入れやすい商品をシリーズ化しブランド価値を毀損してしまうティファニーやコーチなど多くの事例で「上質と手軽」のコンセプトとトレードオフの関係を解説する。

簡単な解説を試みたが、ぜひ一度読んで頂きたい本だ。


 

こうした目で日本の小売業を見ると、かつて上質さを誇った百貨店も、手軽さを突き進めたGMSも共に不毛地帯でもがいているように見える。

手軽さはインターネット通販やディスカウントストアにとって代わられつつあるようだ。

 

2009年度の上位25社(HDを含む)と2007年度と比較した表である。

07年8社あった1兆円を超える小売業は09年度には5社となった。

3年間の比較で増収増益企業はヤマダ電機、ファーストRT、ケーズHD、ドン・キホーテ、ローソン、しまむら、上新電機の7社しかない。

日本の小売業をリードしてきたGMS(HDを含んで)や百貨店はイズミ、ライフを除き減収減益である。単体で上位25社の売上レベルにある、イトーヨーカ堂、そごう西武、三越、伊勢丹は減収、増収はユニクロとセブンイレブンだけである。

上質を追求した百貨店はファストファッションや低価格紳士服、大型手芸店の導入、あるいは自営のお手軽ファッションの導入などで手軽さの方向に舵を切りつつあるが、不毛地帯に入り込んだままだ。

GMSはメーカー主導から消費者主導の価格破壊を進め、多店舗化で手軽さを追求してきたが、いつからか上質化に舵をきり、大型ショッピングセンターや大型店舗化などで高コスト体質に陥り、同じように不毛地帯でもがいている。


 

「小売の輪」の仮説が真実となる。

「小売の輪」の仮説はハーバード大学教授マルコム・マクネアが1957年に小売業の栄枯盛衰を説明するために提唱した。

第一段階・・・新業態が低価格を武器に旧勢力を駆逐して急成長する。

第二段階・・・新業態のノウハウを倣って新規参入が相次ぎ、競合間では差異化競争がおきる。

第三段階・・・差異化戦略の結果、高コスト経営に陥った小売業は新たな低コスト経営の仕組みを備えたイノベーターに駆逐される。

つまり、振り出しに戻るこの循環をマクネアは「小売の輪」と表現した。

(日経ビジネス2008.7)

 


百貨店は成熟化の中で欧米ラグジュアリーブランドが低迷し、代わりにアウトレットやファッションネットモールなどが成長する。

GMSは高コスト経営に陥り売上が低迷し、ファーストリテーリングやしまむらなどの衣料チェーン、家電量販店、ディスカウントストアなどにその地位を脅かされている。

 

手軽さを追求する小売業としてディスカウント業界を見ると、GMSと違い3年間でマイナス成長企業はない。

ただ、MrMaxやJAPANのように低成長企業もある。この業界の中でも激しい競争が起きているのであろう。

どこが低コスト経営をしているのか2010年度の決算から見ていく。

 

回転率は販売革新09年11月号を参考にした推定値。商品はドン・キホーテ連結、トライアル、JAPANはBSの商品を記入、他は期末棚卸高を記入した。回転率は売上原価対商品。)

 

コンプライアンス問題を抱える企業もあるが、総じて成長率は高い。粗利率(売上総利益率)25%台から15%台と幅が広く、販売・一般管理費も23%台から15%台と幅広い。しかし、当期純利益2%以上はドン・キホーテとベイシアのみだ。

在庫回転率は総じて10回転前後だが、ドン・キホーテは5回転以下と低い。

一口にディスカウント業態といっても様々である。EDLPを低粗利率、低経費率、高回転率で行い、利益を出していく業態と見るとベイシアだけが該当するように見える。ドン・キホーテは独特のバライティストアのようだ。

GMSもSMも販売・一般管理費は25%~33%だ。1000億円以下のSMにはアオキスーパー16.7%、大黒天物産17.8%など低販管費の企業もあるが、ディスカウント業界の販管費はGMSやSMより低く、低価格販売が出来る要素は強い。

 

トライアルは自己資本比率が15%と低く、PLANTの自己資本比率も17%と低い。

MrMax、JAPANの成長性は低く、MrMax、PLANT、JAPANの収益性は低い。今後更に厳しくなる競争の中で、どこが生き残るのだろうか。


 

ドン・キホーテ

1980年日用雑貨品の卸業として(株)ジャストを設立。1989年東京府中市にドン・キホーテ1号店を開設。1995年商号を(株)ドン・キホーテに変更。

2007年ドイト(DYI)、長崎屋を完全子会社化する。

主な事業はディスカウント事業と総合スーパー事業がある。

ディスカウント事業はドン・キホーテ、ドン・キホーテUSA、ドイト、長崎屋(MEGAドン・キホーテ)などで構成され売上高416.387百万円(前期比111.4%)、営業利益16.543百万円である。長崎屋をディスカウント業態に転換したことで売上が増加する。

総合スーパー事業は長崎屋で、売上高54.005百万円(前期比60.9%)、営業損失△256百万円である。長崎屋からディスカウント業態への移行や不採算店舗新津、瓢箪山、加古川、八千代台店などの閉店が影響する。

ディスカウント事業の商品別売上は家電製品51.069百万円(構成比12.3%)、日曜雑貨品93.09022.4%)、食品114.27227.5%)、時計・ファッション用品91.10921.9%)、スポーツ・レジャー用品26.2406.3%)、DIY用品16.0203.8%)、海外商品16.9674.1%)、その他7.4161.7%)である。

H22年6月末時点で総店舗数は220店舗になる。


 

ベイシア

1958年(S33)いせやを設立、1971年衣料・食品・住関連の総合化を行う。

1989年カインズを分社、1997年ベイシアを設立する。

非上場企業なので詳細は分からないが、EDLPを追求し日本のウォルマートを目指す。

関東地方を中心に中部、東北などにも進出するが、まだ12県だけだ。現在102店舗だが、群馬(20店)、埼玉(17店)、栃木(15店)、千葉(15店)の4県で全店舗の65%を超える。

31店舗がスーパーセンターで8000~10000㎡のワンフロアで衣食住を扱う。

また、ベイシアグループ企業であるカインズやベイシア電器、カー用品のオートアールズなどに専門店を加えたスーパーモール(敷地面積30万㎡程度)の展開も伊勢崎、白河、前橋、彦根などに展開している。

徹底したコスト管理のもとで低価格販売に徹するベイシアは、ドミナント戦略で集中的に出店するが、店舗数はドン・キホーテの半分しかない。未出店地域も多く、多くの可能性を持っている。

 


トライアルカンパニー

1974年現社長の父親が福岡に「あさひ屋」を創業、1981年現社長が社長に就任、1992年にディスカウント業態のトライアル1号店を開く。

九州を中心に展開するが、2009年北海道のカウボーイを小会社化(2010年1月吸収合併)する。

現在は北海道(11店)、東北(6店)、関東(26店)、甲信越(3店)、近畿(5店)、中国(10店)、九州(55店)、韓国(4店)の120店を展開している。

2005年3月期421億円、2006年3月期1053億円、2008年3月期1504億円、2010年3月期2096億円と急成長を遂げている。

超低粗利、低コスト、高回転率で成長するが、収益性は低く、自己資本比率も15%と低い。

コンプライアンス問題を起こすなどか課題も多いが急成長企業ではある。

 


MrMax

1925年(大正14)年NHKのラジオ電波発射と同時にラジオ店を開設し、以降平野電機店として事業を行う。1978年ディスカウントの1号店MrMaxを福岡市に開店し、1980年平野電機からミスターマックスに商号を変更する。

九州に29店舗を展開し、中国地方8店、関東8店の計45店を展開する。

2010年3月期は売上とその他営業収益を加えた、営業収益は初めて1000億円を超えた。

粗利率は19.9%、その他営業収益を加えた営業総利益率は24.2%、販売・一般管理費は他社に比べ23.5%と高く営業利益率は0.8%と一番低い。

食品の売上は207億円で前期比121.8%と伸びるが、粗利率は14.6%から13.6%と低下する。

成長率も低く、収益性も低い。

 


PLANT

昭和22年金物小売業を創業、1990年(H2)ホームセンターPLANT-1鯖江店を出店、1997年スーパーセンターPLANT-3津幡店を出店、2003年商号を「株式会社みった」から「株式会社PLANT」に変更する。

商業開発から取り残された地域(ルーラル)は他社の参入が少ないことで高いシェアを取り、生活する人の買い物の不自由さを解消できるとの考えからPLANTはスタートする。

現在も新潟、富山、石川、福井、鳥取など日本海側を中心に20店舗を展開する。

2009年9月期の売上869億円のうち、575億円(構成比66.2%)が食品である。

まだ、1000億円には達せず、収益性は低く、自己資本比率も17.3%と低い。

 


JAPAN

1980年(S55)個人創業後、1982年桐間本店設立、1987年株式会社ジャパンに商号を変更する。

2004年スギ薬局と資本・業務提携、2007年スギ薬局の完全子会社となり東証2部上場廃止となる。

ロードサイドを中心にビックコンビニエンス型ディスカウントセンターを展開し、食品や日用雑貨品とヘルス&ビューティ商品を扱う。

大阪、兵庫を中心に関西地区114店舗、埼玉を中心とした関東地区30店舗、合計144店舗を展開する。

成長率も低く、収益性も2010年2月期は固定資産除却損を56億円計上し、当期純利益は赤字となっている。

 


デフレの中で消費が伸びず、価格競争は激化する。

不毛地帯に入り込んでいるGMSに対し、低価格を武器に成長を遂げるディスカント業態をみるが、この業界も厳しい競争にさらされている。

かつてのGMS西友はウォルマートとなってディスカウント路線を突き進み、成長を取り戻した。

イオンはイオンリテール(ジャスコ)、マイカル(サティ)、イオンマルシェが合併し、店名をイオンで統一し500億円の経費削減を図る。

これから多くのドラマがありそうだ。