レポートNo08 2010.12.9  <倉林 勝>

マリクレール・イデー展示会とパリ雑感

ファッション誌マリクレールが年6回発行するクラフトと生活を中心とするマリクレール・イデー誌は日本でも人気のある雑誌だ。

マリクレール・イデーがパリで行う展示会は5日間に10万人の消費者を集める大きなイベントである。

生活に密着したパリならではのクラフトを楽しむことができ、250を超える出展社から商品を購入することもできる。

今回はこの展示会と合わせてパリのクラフト専門店、パリの街をレポートする。

 


マリクレール・イデー展示会&パリ

昨年に続きホビー協会としてパリのツアーを計画した。昨年は初秋だが1950年以来の暑いパリであったが、今回は初冬のパリでクリスマスのイルミネーションが飾られ、パリの華やかな雰囲気が感じられた。

主な目的はマリクレール・イデー展示会の視察と、市内クラフト関連小売店の視察である。

 

(A)マリクレール・イデー展

マリクレール・イデー(marie claire idees)はフランスのファッション誌マリクレールが年6回発行する手づくと生活関連の総合情報誌で素晴らしい本だ。企画や商品のアイデアソースとして十二分に活用できる雑誌だ。

マリクレール・イデーの展示会(Creations SAVOR-FAIRE by Marie Claire Idees)は相当以前から行っているとの話は聞いていたが、見るのは今回が初めてである。

展示会場は地下鉄12号線終点近くのポルト・デ・ベルサイユにある展示場(大型展示場が6~7棟ある)の一つで開催され,ビックサイトの2ブース程度のスペースにマリクレールを含めた約250社が出展している。

会期は11月18日から22日までの5日間であるが、およそ10万人以上(一般客)が来場していると思われ大変にぎわっている。

基本的にアメリカのホビーショーとは違い、完全な消費者ショーでブースは一般の消費者に対し販売を目的としている。

 

出品者はメーカー、卸業、小売店それにクリエーター(デザイン画など)などで、日本企業としてフランスShido(新道繊維)も出店している。

出展ブースはディスプレーを行い、消費者を買う気にさせて販売する。日本からの参加者もサンプルとして各種購入できるので商品化の参考となる。単独で参加した日本のメーカー(エルベール)は商品の面白さに興奮して眠れないと話していた。

商品の中には日本製もあって、オリンパス、フジックス、クロバーなどが目についた。企業名はわからないが携帯を飾る日本製ステッカーも大きなコーナーとしてあった。

全体の構成は60%が生地や針を使う、ソーイング、ボタン、縫い糸、編物、刺繍、パッチワークなどで、40%がペーパー関連、クラフト、インテリア、アート、ビーズなどのである。

中央部にクリエーターの作品が展示され、マリクレールの最新号と連動したコーナー、今回のテーマ「不思議の国のアリス」をテーマにしたコンセプトコーナーが続いている。

出展ブースでのデモストレーション(ミニ教室)はほとんど無いが、全体での教室として12のブースが用意され5日間のスケジュールが決まっている。充実した教室で、1ブース10人程度が受講しほぼ満員の状況だ。

 

購入価格は日本に比べて高いように感じるが、趣味のクラフトでの価格競争などはないのだろう。

刺繍キットは40~50、カットクロス(55㎝×50㎝)4.3、インテリア生地(140㎝幅)24~30などである。もちろん低価格のものもあるが、この業界全体としては安く売るという雰囲気は感じられない。

商品は個人的に興味を引くモノも多く、特に細かいパーツ類は面白い。アクセサリー関連のパーツはナットや石膏やポリエステルなど多く楽しいものがある。生地は44インチの半折ものが多く、日本的サイズだがアメリカのものは見当たらなかった。糸は手縫いや刺繍に使えるカード巻きを多く見かけ、カード自体がデザインとして楽しい。

作品を見ると、作ることが目的というより、作ったものが生活の中に溶け込むという感じがし、この点では日本より高感度という感がする。

日本からの参加者も多くのサンプルを購入していたが、会場は多くの人で埋まりクラフトの人気の高さを感じる。圧倒的に女性で年齢層は日本同様高いように感じ40歳以上だろうか。

 

(B)パリの小売店

マリクレール・イデーの展示会に10万人以上の人が訪れながら、パリ市内には総合的な大型小売店を見ることが少ない。基本的に昔ながらの専業店、ボタン付属店、刺繍専門店、アクセサリーパーツ専門店などが多くある。

モンマルトル近くには日暮里的な生地と付属の大型店が集まる地域があって、いつも込んでいる。

セント・ラザール駅近くに比較的大きいMODESがあって、日本で発売の「パリの雑貨店」など本には「パリのユザワヤ」と紹介されるが刺繍を中心とした店だ。

 

百貨店の中にはラファイエットの別館(インテリア館)に10坪程度の刺繍とボタンなどを売る店がある。

パリの生地店から始まり1852年に世界最初の百貨店として生まれたボン・マルシェはサン・ジェルマン地区にあるが今回初めて見学した。食品館を別棟に持ち、落ちつた雰囲気を持ち銀座でいえば「松屋」的なイメージがした。ここには150坪クラスの総合的なクラフトショップがあった。

毛糸は各メーカー別に陳列し、生地はリバティ(28と韓国製(22の綿プリントがそろう。

毛糸、生地、ボタン、付属品、道具類、糸類、アクセリーパーツ類、ドログリーの商品など品ぞろえも十分で、茶色に統一した木製の什器を使用しシックにまとめられている。火曜日の夕刻に行ったが15人程度の人がレジを待っている。日本的感覚でみてもナカナカな店と思えた。

 

パリ市役所横にあるBHVは日本では見かけない業態だ。高級ホームセンターのようであり、東急ハンズとロフトを足したようでもある住関連を中心とした大型店だ。文具、家庭雑貨、インテリア、キッチン関連、おもちゃなど大きな売り場である。引出しの取手だけでも1000近くのアイテムが揃い、見るだけでも楽しい。この中には50坪程度のクラフトがあったが一般的な店だ。

 

専門店も幾つか見るが、小型だが専門性に富んで人気はあるようだ。どこも住宅地に近くこんな場所でという感じの店も多い。

 

この店はマレ地区にあって道路の路地を入ると中庭が広がり店がある。生地、ボタン、レースなどの約40坪の専門店である。

ボタンはサンプルが台紙に貼られ、現物は引出の中にある。イメージは昔風だが温かみがあり、中庭が雰囲気を出す。馴染みの客も多いのであろう。早朝ではあるが客もいる。

 

ドログリーは日本でもなじみがあるが、パリでも人気が高いのであろう、お客は多い。

月曜日は12時から始まり、平常は11時から6時半までで、昼は12時から2時まで休みとなる。

価格競争やセカセカした雰囲気はなく、ゆったりと営業している。

レース・テープ、毛糸、ビーズパーツなどの品揃えは豊富だ。生地はリバティのカットクロスと自社のパーツを組み合わせたキットものが中心でツアー参加の小売店がサンプル買いをする。

 

 

ビーズ・パーツショップは通行中に見つけ入る。専門店として作品見本が充実している。

もう一軒はマレ地区の運河沿いにある。元の倉庫街をオープン形式のショッピングモールにし、中央にはトロッコのレールを残し雰囲気を出す。アートや雑貨などの店が多く、その内の1件がLoisirs & Creationで文具や雑貨と共に毛糸、パッチワーク用生地、レース・テープ、手芸用品を扱う。店は100坪あるだろうがクラフト関連は20坪程度である。

 

パリの雑貨店や手芸店を紹介する本は日本でいくつか出版されている。

その本に紹介されている幾つかの店を今回はマレ地区を中心にみる。

マレ地区はアート関連の店が多く、バスティーユ広場からボージュ広場にかけて絵画や彫刻、アンティック、写真やカメラ店などを多く見かける。

雑誌で紹介されるため日本からのお客も多いとの話を聞くが、これでどのように店が成り立っているのか正直わからない。

 

子供を中心に生地と製品、簡単なパーツの店。2店舗で運営し、日本からのお客も多いという。

 

ボージュ広場前の通路右側は画廊で絵画や彫刻が並んでいる。近くにはアンティックな雑貨などを扱う店も多い。

MERCIは子供服BONTON等を展開するオーナーがセレクトショップとして開いたものでパリでも人気が高いとのことである。日本の雑誌等にも良く紹介されている。

店は通りから路地を入ると中庭の三方にあって約450坪の広さだ。衣料もあるが、インテリアや食器などの生活雑貨、ファッション雑貨、文具などで構成されている。商品には日本の雑貨や文具なども置いてある。また、カフェと古本で大きなスペースを取っている。

広いスペースにゆったりと商品は展示され、高価格帯が中心だ。採算が気になるがパリではこのようなものかとも感じる。

近くにあるBONTONも子供服やおもちゃを中心とした専門店だが、ゆったりとした店だ。

 

パリは刺繍の専門店が多い。La Croix & La Maniereは刺しゅう糸と刺繍布を扱う専門店である。無くなった雄鶏社の展示会にも出品したり、本を出したりと日本でも知られた店のようだ。

刺繍布は麻を中心にオリジナルの色を付け、刺繍糸もDMCのようなものでなく大きなコーンに巻いたものを使用している。細かいパーツも扱い、オーナーは先生としても活躍している。

日本のホビーショーにも興味を持っている。

20坪ほどの小さな店だが、このような店がたくさんあるというのがパリの特徴だろう。

価格などで競争することなく、個店ごとの個性や特徴でファンを作っているのだろう。

 

(C)パリ雑感

パリ滞在中の11月21日にアイルランド政府はEUなどに金融支援を要請した。

ギリシャから始まり、アイルランドが続きポルトガルが近いといわれ、スペインへの波及をEUは恐れている。アイルランドにはフランスが500億6兆円)、ドイツが1385億(16兆6200億円)、英国が1485億(17兆8200億円)の投融資残高を持ち、ポルトガルには3カ国で1015億(12兆1800億円)、スペインには4548億(54兆5769億円)の投融資残高を持っている。

ドミノのように崩壊が続けばユーロの崩壊だけでなく、EUの崩壊、金融機関の崩壊から世界が大混乱となる。

EU各国は自国の債務削減のために増税や、社会保障の削減、公務員の削減や給与の削減、教育費の削減から、軍事費の削減と歳出削減に力を入れている。

フランスも同様に削減を計画し、現在60歳で支給の年金を62歳からとする案を審議中だが国民の反発は大きく、ストが多発している。

訪問中のパリもあちこちでストがあり、オルセー美術館やモンマルトルのケーブルカーもストであった。また、テロの計画があるとのことで銃を持った兵士を多く見かけた。

しかし、パリの街はイルミネーションに飾られ変わらぬ人出である。

 

パリはセーヌ川の中州であるシテ島(ノートルダム寺院がある)を中心に発達し、およそ直径10キロの環状となっている。東京山手線内側の4割ほど大きい街で、世田谷区、渋田区、目黒区を合わせた大きさ、あるいは千代田区、中央区、港区、新宿区を合わせた程度の大きさである。

パリ市内には14本の地下鉄が走り、どこまで乗っても1.8であるが、10枚購入すると1,2となり、便利で安い乗り物だ。1駅約1分、距離にして600~800メーター、数駅は充分歩ける距離だ。

地下鉄内ではゲームをする若者や化粧をする女性を見ない。携帯を使う人もまれで、使う人は皆スマートフォンだ。スリが多いせいか寝る人もいない。少し、日本と違う風景である。

 

市内には約220万人がすみ、郊外の都市人口を含めると1000万人の都市である。

市内には多くの広場があり、歴史的建造物は多いが高層ビルはない。土地はパリ市のもので、33メートル以上の建設は規制されている。

現在の建物の多くは1830~50年代に建てられたもので、古くはあるが変わらない良さもある。

1889年のパリ万国博でフランス革命100周年を記念して建設されたエッフェル塔は高さ324メートル、これが市内で一番高く各地から良く見える。

 

フランスの人口は約6200万人であるが、観光客は世界一多く国の人口を超える8000万人が訪れる。1日にすれば22万人が訪れていることになり、観光客が2日パリに滞在すると仮定すると44万人の外国人が毎日パリにいることになる。

シャンゼリゼ通り、オペラ座やラファイエットの周辺はいつもお多くの人でにぎわう。ラファイエットのフロアガイドは10カ国以上の言語で用意されている。私から見れば皆フランス人と思えるが、パリに住む人から見ると、パリ人、フランス人、イギリス、イタリヤ、アメリカ人などと服装やしぐさでわかるようである。中国人や韓国人も多い中、私の顔を見て黙って日本語のフロアガイドを出されると、どこの国の人かわかるのであろう。

 

パリに百貨店とよばれるものはラファイエット、プランタン、ボン・マルシェの3店しかない。郊外にはカルフール(世界2位)、オーシャン(世界16位)という小売業があるが市内にはなく、小型スーパーのモノプリ(MONOPRIX)が沢山あって深夜まで開いているので便利だ。MONOPRIXは立地によって店舗の作りも品ぞろえも違う。昨年や今年のホテルの近くの店は便利だが低価格品を販売するイメージだが、シャンゼリゼ通りや高級住宅街のチェルシー通りにある店は専門店としてのイメージがある。

どこも基本的に1階が衣料や化粧品、文具、雑貨などで地下が食品となっているが、食品は安い。

日本と違い冷えているビールはないが、酒も水もパンもチーズも安い。

 

ラファイエットの込みようは日本のデパートから見れば「うらやましい」の一言であろう。

日本は銀座から日本橋の間だけで10店を超えるし、観光客の数はフランスの1割程度である。

帰国した12月2日夕方銀座を歩くが、閉店セールの西武を除けばデパートに人はいない。三越の新館も閑散とし、松坂屋に開店した中国人目当てのラオックスも閑散としている。近頃、中国人の姿を見かけないが、ラファイエットでは中国語が飛びかっている。

クリスマスシーズンを迎えたが、銀座のイルミネーションとラファイエットのイルミネーションの違いが勢いの違いのように感じられる。

 

パリのデパートや専門店は日曜日が休みである。

フランスの労働時間は週35時間、残業は10時間までと決められているが、さらに労働時間を32時間にする動きがあるようだ。

観光客がどれほど来ても変えない。日曜休業の見直しや、労働時間の見直しなど政府はしたいようだが、反対する人が多いようでならないとパリに住む人が嘆いていた。

フランス全体の景気も悪く、失業者も10%を超えているのだから、もっと働こうといっても、早く退職し年金生活に入りたいという人が多く、思うようにならないと嘆いていた。

不況といわれるが、夜のレストランはどこもいっぱいで予約なしには入りにくい。食品価格は安いがレストランは結構な価格だ。スターバックスは到る所で見るが、さすがに牛丼はない。

クラフトも生活の一部として活気を帯びていたが、生活の楽しみ方が上手なのであろう。

 

パリ市内では歴史的建造物の保護や景観維持が観光の為にも重要となる。

それに引き換え、東京は再開発の嵐だ。丸の内、有楽町、日本橋が変わり、今は京橋を開発中だ。蛇の目や片倉ビルの一帯は全て更地になり、新たに商業ビルとオフィスビルに生まれ変わろうとしている。

そして、銀座も激しく変化する。1984年10月に悲願の銀座地区へ進出した西武は年末に幕を下ろし来年秋にはルミネに変わる。和光は永年続けてきた日曜日休業を返上し営業を開始する。三越は増床し旧館の屋上と新館の9階をつなげた銀座テラスを作り、新館9階は売場をなくした。

松坂屋はフォーエバー21を導入し、この11月20日に中国家電最大手の蘇寧電器傘下のラオックスが導入された。

ザラ、H&M、ユニクロなどの店舗が大きくなり、ついに銀座通りに紳士服の青山も進出した。

有楽町、銀座地区の小売市場は6200億円と言われるが、2000年に1800億円あった百貨店の売上は2009年には1350億円まで減少し激しい競争が繰り広げられている。

 

激しい変化が東京の魅力だろうが、パリの変化が少なくゆっくりとしたリズムも悪くはない。

カルフールやオーシャンのような世界の大小売業もあるが、家業的な小売業も多くある。それぞれが、価格ではない店の魅力を打ち出すことで成り立つ世界も、あわただしい日本から見ればうらやましく感じてしまう。

エッフェル塔の対岸、シャイヨー宮から続く高級住宅街の中にあるパッシー通りはラグジュアリーブランドの店はないが個性的なブティックが並ぶ。昔からのボタン屋もあって悪くない通りであった。

このような通りもパリの魅力の一つであろう。

 

今回、日仏間の貿易コーディネーターを仕事とするパリに住むフランス人女性を紹介され夕食を共にし、有意義な話を聞くことができた。

 

以上