レポートNo06 2010.11.30  <倉林 勝>

経済・通商の枠組みについて&2012年問題

貿易や通商の機関としては全世界を対象としたWTOがあるが、多数の国にわたり協議が進めにくい難点を抱えている。それを補うために地域間や、国家間の協定が主力となりつつある。

地域間としてのEUNAFTA、メルコスール、ASEANAPECなどを簡単に解説する。

国家間、国対国、国対地域としてのFTAEPATPPを簡単に解説する。

合わせて、日本の阻害要因としての農業の実態をみる。

また、APEC参加国や日本のEPA対象国などをGDP順に整理し相関を一覧表としている

 

2012年に向けて世界は政治の季節を迎える。アメリカ、中国、韓国、北朝鮮、台湾、ロシアなどの指導者は選挙などで変わる可能性が大きい。日本にとっての波乱要因となる。

 

 


(A)経済、通商の枠組みについて

横浜でのAPECも終わったが、APECを中心としたFTAPPは進まず、TPPに日本は「交渉参加」の文言を削除し「交渉参加を目指し協議を開始する」と明記するに留まり、確たる意志の表明を先送りした。

FTAPP、TPP、あるいはEPAなどという経済や貿易協定の言葉が並ぶが一度整理をしておこう。

貿易や通商の機関としては、全世界を対象とした機関、地域間の機関、そして個別の協定がある。全世界を対象としたWTO、地域間の機関としてはEU、NAFTA、Mercosur、ASEAN、APECなどがあり、個別にはFTAやEPAなどがある。

 

WTO(World Trade Organization・・世界貿易機関)

自由貿易促進を主たる目的として創設された国際機関である。

1930年代の世界恐慌と、それに伴う保護貿易主義が第二次世界大戦の一因になった反省にたち、円滑な国際貿易を実現するために国際通貨基金(IMF)や国際復興開発銀行と共に1948年GATT(General Agreement on Tariffs and Trade・関税及び貿易に関する一般協定)が23カ国で発足し、1995年1月にGATTを発展解消しWTOが設立された。

GATTは協定(Agreement)にとどまったのに対し、WTOは機関(Organization)であるのが大きな違いだ。

自由(関税の低減、数量制限の原則禁止)、無差別(最恵国待遇、内国民優遇)、多角的通商体制を基本原則とし物品貿易だけでなく金融、情報通信、知的財産権やサービス貿易も含めた包括的な国際ルールを協議する機関である。

現在、加盟国は153である。日本はWTO発足時の加盟国だが、中国は2001年、台湾は2002年からの加盟で、ロシアは現在申請中である。

WTOは多数の国にわたり、協議が進めにくい難点をかかえ地域や国家間の協定などが主流となりつつある。

 

EU(European Union・・欧州連合)

欧州連合条約により設立されたヨーロッパの地域統合体で欧州連合の標語は「多様性における統一」を掲げている。

鉄のカーテンの向こうはソビエトを中心とした社会主義陣営、大西洋の向こうは超大国のアメリカ、その間にはさまれた西ヨーロッパ諸国を統合しようという機運が高まり、1952年に欧州石炭鉄鋼共同体が設立される。設立後統合の効果と重要性の認識が高まり、経済分野での統合とエネルギー分野の共同管理を進展させ欧州石炭鉄鋼共同体、欧州原子力共同体、欧州経済共同体を統合し1967年EC(European Community・欧州諸共同体)が作られる。

欧州経済共同体では域内の単一市場設立構想が持ち上がり、1986年に共同市場設立が掲げられ、加盟国間の国境という障壁を除去して行くことが盛り込まれた。

1989年11月ベルリンの壁が崩壊し、東西ドイツが再統一された。東ヨーロッパ諸国の社会主義体制の崩壊はECに重大な影響を及ぼし、これらの国が自由主義陣営につくことが想定された。ヨーロッパの統合は政治の分野においても協力関係を強化することが求められ、1993年11月にマーストリヒト条約が発行され欧州連合が設立された。

欧州連合では経済分野に関して超国家的性格を持ち、共同外交・安全保障政策、司法・内務協力という加盟国政府間の協力枠組みを新設した。経済の分野では次の段階として通貨統合が進められ1998年に欧州中央銀行が発足し、1999年1月に単一通貨ユーロが導入された。

欧州連合の2008年のGDPは18兆3940億ドルで、単一の国とするとアメリカ合衆国の14兆2640億ドルを上回り世界第1位となっている。

現在のEU加盟国はベルギー、ブルガリア、チェコ、デンマーク、ドイツ、エストニア、ギリシャスペインフランスアイルランドイタリアキプロス、ラトビア、リトアニア、ルクセンブルグマルタ、ハンガリー、オランダオーストリア、ポーランド、ポルトガル、ルーマニア、スロバキアスロベニアフィンランド、スエーデン、イギリスの27カ国である。

太字(アンダーライン)の16カ国がユーロ導入国である。

スイスとノルウェイはEUに加盟していない。イギリス、デンマーク、スエーデンや多くの東欧国家はユーロに加盟していない。

ギリシャの財政危機、近時はアイルランドの財政危機とユーロ圏には多くの問題点がある。同志社大学大学院教授・浜矩子氏の「ユーロが世界経済を消滅させる日」に詳しい。

 

NAFTA(North American Free Trade Agreement・・北米自由貿易協定)

メルコスール(Mercosur・・南米南部共同市場)

NAFTAは1994年にアメリカ合衆国、カナダ、メキシコの3カ国で結ばれた自由貿易協定である。

メルコスールは1995年にEUのような自由貿易市場の南米での創設、域内の関税撤廃などを目的にアルゼンチン、ウルグアイ、パラグアイ、ブラジルの4カ国で発足し、その後ベネズエラが加わり、ボリビアが参加を表明した。

2005年に発足予定であった米州自由貿易地域(FTAA)計画に統合する計画が期待されたが、ベネズエラなどの反対で計画は進んでいない。

 

ASEAN(Association of South-East Asian Nations・・東南アジア諸国連合)

東南アジア10カ国の経済・社会・政治・安全保障・文化での地域協力機構である。1967年、反共産主義の立場をとるタイ、インドネシア、シンガポール、フィリッピン、マレーシアの5カ国が設立し、その後ブルネイ、ベトナム、ミャンマー、ラオス、カンボジアが加わり現在の10カ国となった。

域内の人口は5億8000万人と多く、近年の経済成長により、EU、NAFTA、中国、インドと並べられる存在になりつつある。

ASEANの主な活動は外相会議で経済・社会分野での地域協力であった。1972~73年からEUやオーストラリアとの域外対話を開始し、現在はこれに日本、ニュージーランド、カナダ、アメリカ、韓国、中国、ロシア、インドを加えた10カ国が域外対話国・機構と呼ばれ拡大外相会議を開いている。1975年以降は外相会議とは別に経済担当閣僚会議も開かれる。

現在参加10カ国に日本、中国、韓国を加えた13カ国をASEAN+3と呼び、これにオーストラリア、ニュージーランド、インドを加えた16カ国をASEAN+6と呼んでいる。

2005年に開催されたASEAN+3(中国・韓国・日本)において民主主義の促進、核兵器の拒否、武力行使・威嚇の拒否、国際法の原則順守、内政不干渉などの首脳宣言が出される。

2006年に開催されたASEAN+6による初の経済担当閣僚会議が開かれ、参加16カ国によるFTA(自由貿易協定)構想が大筋で合意された。

 

APEC(Asia-Pacific Economic Cooperation・・アジア太平洋経済協力)

環太平洋地域における多国間経済協力を進めるための非公式なフォームである。

1989年オーストラリアの提唱で日本、アメリカ、カナダ、韓国、ニュージーランド、オーストラリア及びASEAN加盟の6か国(ブルネイ、インドネシア、マレーシア、フィリッピン、シンガポール、タイ)、計12か国で発足した。

現在は台湾、中国、香港、メキシコ、パプアニューギニア、チリ、ペルー、ロシア、ベトナムが参加し、21の国・地域(香港)となった。

APEC域内の人口は世界の約41%、GDPは約58%を占めている。

年1回首脳会議、外相、経済担当省閣僚会議が開かれる。

APECは開かれた地域協力によって経済のブロック化を抑え、域内の貿易・投資の自由化を通じて、WTOのもとで多角的貿易体制を維持・発展することを目的として来た。

しかし、近年WTOの新ラウンド停滞などにより、APECとしての自由貿易協定を作る動きが出てきた。

2006年アメリカがFTAPP(Free Trade Area Asia-Pacific・アジア太平洋自由貿易圏)構想を打ち出す。APEC加盟の21カ国において一段の貿易自由化を目指す枠組みで、全体のFTA(自由貿易協定)といえる。2010年に道筋をつけ、2020年を目標とする方向で進められている。

そして、FTAPPの中核と位置づけられるTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)がスタートしている。TPPがFTAPPに発展すれば21カ国が参加する巨大な経済圏がアジア太平洋地域に誕生することになる。

 

 

 

FTA(Free Trade Agreement・・自由貿易協定)

EPA(Economic Partnership Agreement・・経済連携協定)

地域間の貿易のルール作りに関しては、WTOを通した多国間交渉の形が取られてきたが、多国間交渉は多くの時間と労力が必要とされるため、WTOを補う地域間の新しい国際ルールとしてFTAやEPAが注目されるようになった。

FTAは物品の関税、その他の制限的な通商規則、サービス貿易等の障壁など、通商上の障壁を取り除く自由貿易地域の結成を目的とした2国間以上の国際協定である。地域経済統合の形態では緩やかなものとされている2国間協定が多いが、NAFTA等の多国間協定もある。

 

EPAは経済条約の一つでFTAを柱として、関税撤廃などの通商上の障壁の除去だけでなく、締結国間での経済取引の円滑化、経済制度の調和、及びサービス・投資・電子商取引等のさまざまな経済領域での連携強化・協力の促進等を含めた条約である。

 

FTAは特定の国や地域との間にかかる関税や企業の規制を取り除き、物やサービスの流通を自由に行える条約であるが、EPAは物流(物やサービス)のみならず、人の移動、知的財産権の保護、投資、競争政策など様々な協力や幅広い分野での連携で、親密な関係強化を目指す条約である。

TPPは多国間のFTAでもある。

 

日本は9月にインドとEPAを結び、10年間でインドからの輸入の97%、日本からの輸出の90%を無税とすることに合意した。現在、日本における繊維衣料品の関税は9.1%、綿織物の関税は8.4%かかるが、即時撤廃でこれが無くなればインドは繊維製品の輸入先として見直されるであろう。

11月末にはモンゴルとEPAの本格交渉をスタートさせ数年以内に締結の見込みだ。

日本は2002年のシンガポールとの締結を始めとし、メキシコ、マレーシア、チリ、タイ、インドネシア、ブルネイ、フィリッピン、スイス、ベトナム、インドと協定を結んでいる。

また、ASEANと包括的EPAを順次発行して行く。

 

韓国はチリ、シンガポール、スイス、ノルウェイ、アイスランドなどと協定を結び、インドやEUとも締結した。ASEAN、アメリカ、オーストラリア、カナダ、サウジアラビア、など多数の国と交渉中である。

EUとの締結が日本企業に大きな影響を及ぼす懸念が強まった。

 

 

 

(B)TPP

.TPP(Trans‐Pacific Partnership またはTrans‐Pacific Strategic Economic Partnership・・環太平洋戦略的経済連携協定または環太平洋パートナーシップ)

2006年にAPECの一員であるシンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランドの4カ国で発効した経済連携協定。加盟国間の経済制度、サービスや人の移動、基準認証などの整合性を図り、高い水準の関税撤廃を目指している。

2015年までに協定国間の貿易に於いて、工業品、農産品に関わらず、例外品目の極めて少ない関税撤廃と貿易自由化の実現を目指すFTAを包括する多国間のEPAである。

当初の4カ国に続きオーストラリア、ペルー、アメリカ、ベトナム、マレーシアが参加予定を表明しFTAPPに発展する可能性を持ち注目を集めることとなった。

現在、日本を含むカナダ、メキシコ、韓国も参加を検討中であり、中国も情報収集に努めている。

日本は2010年10月に政府の新成長戦略実現会議において、米国、韓国、中国、ASEAN、オーストラリア、ロシア等のアジア太平洋諸国と成長と繁栄を共有するためのEPA・FTAが重要であるとし、アジア太平洋自由貿易圏(FTAPP)を視野に入れた環太平洋パートナーシップ(TPP)参加を検討し、先の横浜APECで基本方針を発表することとなった。

 

ただ、参加を表明してもすぐ加盟できるわけではない。関係9カ国すべてから交渉参加の同意を取り付ける必要がある。交渉に参加できれば、多国間の交渉で交易の条件や通商のルールの一致に向けて協議をすることとなる。

9カ国と日本を加えたGDPは約21兆ドルとなり、世界のおよそ3分の1をしめEUを上回る規模となる。

アメリカは参加表明から2年越しで交渉を行い、カナダは酪農などの市場開放が不十分とされいまだ参加は認められていない。

 

日本がTPPに参加を表明すれば農畜産物の自由化、郵政事業の再度の見直し、牛肉のBSE問題などの課題を負う。

管総理が参加を表明するが身内の党内から農業への打撃を懸念する100人をこす反対者がでて、「交渉参加」の文言を削除し「交渉参加を目指し協議を開始する」と曖昧な表現とした。

カナダの例もあり、農業問題を抱える日本が入れば交渉のスピードが遅れるとの懸念を参加国からもたれ、参加国から相手にされない懸念も生じている。

 

TPPは貿易の拡大を狙うアメリカが参加し、主導権をにぎることで注目を集め始めた。

日本の産業界がTPP参加を強く打ち出すことは、円高に苦しみ韓国に追い上げられ、貿易立国として生き残るための最後のチャンスとみているからである。

韓国はEUとFTAを結び、アメリカとは今回は自動車や牛肉問題で先送りとなったが交渉は進められている。そして、インドを始め世界各国でFTA構築網を進めている。近く、中国とのFTAも視野に入りつつある。

たとえばEUでは乗用車に10%、液晶テレビに14%の関税がかかるが、韓国がEUとFTAを結べば5年以内に関税はゼロとなり、日本からの輸出には関税がかかりEUの輸入価格に大きな差が生じる。日本はその上に円高の影響(韓国はウォン安)をうけて、厳しい輸出条件を更に悪化させることになる。

アメリカは自国経済の立て直しに輸出倍増計画をたて、FTAの相手を着実に増やしている。NAFTAで足元を固め、成長著しいアジア・太平洋地域の巨大市場をみすえTPPがいずれFTAAPになることを前提にTPP参加に強い意欲を見せる。

WTOの交渉が停滞し、2国間や地域同士での関税削減やサービスの自由化を進める方が輸出拡大に効果が大きいと考えているからだ。

 

日本のTPP参加は政府のリーダーシップ不足や農業問題などに足を取られ前に進まない可能性もある。

産業界はTPPに参加できなければ、TPPの参加国やFTAの参加国に生産基地を移転し、生産の海外シフトが勢いづくであろう。競争力の源泉である技術流失だけでなく、国内雇用の消失も起こる。農畜産業を守り、工業生産を失うのか大きな岐路に立たされ、政治の決断が求められている。

 

(C)日本の農業

TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)やEPA(経済連携協定)、FTA(自由貿易協定)などの締結は常に農業問題がネックとなっている。EPAの締結も大きく農業問題を抱えない国を中心として進められている。

TPPにより主要農産物が全ての国と関税が撤廃されれば、現在の自給率40%が14%まで低下するとの農水省の試算が出たが、省の思惑も大きく働き公正な数字かは判断できない。

米はジャポニカ米(短粒種)とインディカ米(長粒種)の2種類あるが、日本人が普段食す米はジャポニカ米で、これは日本を除けば中国の一部とアメリカ・カリフォルニアでしか作っていない。

世界での生産は80%がインディカ米でジャポニカ米は少数で価格も中国産で1表1万円と言われ、日本価格との差はそれほど大きくはない。全てが、輸入品に置き換えられることはないであろう。

現在、食品の内外価格差は大きく、この差が無くなれば他の消費に向い、小売業の活性化に役立つともいえる。

 

農業は食糧安保・食糧自給率、安全・安心問題、国土保全・環境問題など多くの問題を抱えるが、現在のままでは立ちいかいことも自明である。

圧倒的多数が「農家」という零細な家業で、「農業」という企業的なものはわずかしかない。

昭和60年代まで160万店を超える小売業があったが、零細な家業としての小売業は淘汰され現在の小売業は110万店まで減少した。

農業だけが政治、特に票と結び付いて多額な補助を受けながら守られてきたが、これも限界に近付いている。

 

昭和50年に495万3千戸あった農家は平成12年に233万7千戸、そして平成20年には175万戸まで減少した。

175万戸のうち専業農家は23.4%の41万戸しかなく、他は兼業農家だ。兼業農家のうち62.3%をしめる第2種兼業農家(農業以外の所得が主で農業所得を縦とする)は109万戸である。

平成20年、北海道を除く農家を規模別にみると、耕地規模が1ha以下の農家は56.8%で96万9千戸、2ha以上はわずか17.1%の29万2千戸しかない。

農業人口(世帯人口)は昭和50年には2319万7千人いたが、平成12年には1046万7千人、平成20年には729万5千人まで減少した。

729万5千人のうち農業就業人口は298万6千人で、53.5%の159万7千人が女性だ。そして、70.3%の210万人が60歳以上の高齢者である。

総人口に対し農業人口は5.7%で農業就業者は2.3%でしかない。

 

1haは100m×100mでサッカーコートより少し大きい程度の面積だ。1反が300坪、10反が1町歩(3000坪)・約1ヘクタールである。

日本の農業の多くは第2種兼業農家で1ha以下の零細農家であり、高齢者の比率も高い。

このままの状態が長く続くとは思われない、大型の企業型農業が生まれれば、海外に対しても競争力が生まれ、日本ブランド(安心・安全・高品質)として輸出の可能になるであろうが、規制と補助金に守られた農家が大きく変化するには、現在の第2種兼業農家の就業者がいなくなるまで難しいかも知れない。土地に執着する姿勢は簡単には変わらないであろう。

 

本来は政治主導の最たる課題だが、選挙の票、特に地方選挙の票としの農家の力は大きい。

農業人口(総世帯人口)は日本人口の5.7%しかないが、例えば青森県では15.0%、岩手県21.2%、鳥取県18.0%、島根県16.6%をしめる。

このウェイトの高さが選挙票としての力を持ち、農協等の圧力団体と共に農業改革を阻害する。

 

農家を大きく変革し、力のある農業に転換できるかが日本のこれからの最大の課題で、この問題に足を引きずられ、なにも決めない、なにもしない日本が続けば携帯電話だけでなく、日本そのものがガラパゴス諸島となるであろう。

政治の力が求められるが、支持率30%を切った危機的状況の管内閣で進められるであろうか。2012年に向けて日本の周辺国は政治の季節を迎えるが、小沢問題と尖閣ビデオ流失問題で補正予算もままならない状況を見ると大いに不安である。

 

(D)2012年政治の季節

アメリカの中間選挙でオバマ民主党が破れ、中国、ロシアと見ていくと、世界との協調路線から自国中心の保守的な動きに変わる気配が強く感じられる。

2012年を中心に日本の周辺は政治の時代に突入する。

 

日本・・・2009年8月末の総選挙で民主党鳩山内閣が誕生し、今年秋に管内閣と変わった。

尖閣問題やビデオ流失事件だけでなく、大阪地検特捜部の押収証拠改竄事件、警視庁公安外事課のテロ関連情報の流失事件など国のガバナンスを揺さぶる事件が続発する。小沢問題などを含み補正予算もままならない状況で、右往左往し管首相の眼も宙を見ているようだ。

解散しなければ、2013年秋まで持つが大丈夫であろうか。

日本海側を見れば事態は激しく動く。

 

中国・・・現国家副主席の習近平氏が中央軍事委員会副主席に就任し次期総書記に選出される見込みとなった。2012年秋に党大会で中国共産党総書記に選出され、2013年春の全国人民代表大会で国家主席になる見込みとなった。

現主席の胡錦濤氏は副総理の李克強氏を次に据える計画であったが、江沢民前国家主席など保守派の長老や軍部の力で習氏になったといわれる。

次は現在の温家宝国務院総理から誰に変わるかが焦点となってきた。胡氏も温氏も自分達の利権を守るために激しい闘争が想像される。

習氏を取り込む保守派や人民解放軍がどのように動くか、尖閣もふくめて目の離せない時代を迎えている。

 

北朝鮮・・・2012年は金日成生誕100年、金正日生誕70年、次を予定される金正恩生誕30年の世襲3代の記念の年となる。北朝鮮は2012年を「強盛大国の大門を開く年」としている。

親子3代にわたる世襲政治がすんなりと継承されるのか、継承した後にどのように変化するのか不確かだ。

中国の習氏は朝鮮戦争60周年記念に北朝鮮と共に、この戦争は韓国の侵略戦争と訴え、北朝鮮との親密関係を強く打ち出した。

3代目の時代に入り、中国の支配国家あるいは地域となるのかも知れない。いずれにしても内部で激しい動きがあるであろう。

 

韓国・・・韓国大統領の任期は5年で再任は出来ない。現在の李明博大統領は2013年2月に任期満了となる。2012年に選挙が行われるが、経済を活性化させた保守派が政権を延長できるか、あるいは北朝鮮の動向に左右され親北の左派勢力が政権を取るかが注目される。

ウォン安政策とEUを含めたFTAを積極的に結び、いまや日本を脅かす存在となったが、足元では経済成長の歪みも大きく格差が広がり「分配」や「福祉」などが争点となっている。成長主義の李現政権から親北政権に変わるかの岐路に立っている。

 

台湾・・・台湾総統の任期は4年で、再選は1回まで出来る。現在の馬英九中国国民党政権は2012年5月に任期を迎え、次の政権を選択することとなる。

経済が停滞する台湾の馬政権は中国と結びつくことで活性化を計画するが、中国の狙いは台湾併合を目指している。馬政権は相続税や贈与税を引き下げ金持ち優遇策をとり、穴埋めに消費税を引き上げたが、失業率は8%当たりで高止まりし国民の不満となっている。

前回敗北した民進党は李登輝氏の薫陶をうけた蔡英文女史が主席となり、支持率は馬政権を上回る。民進党が勝利して、中国との関係を見直すことになる可能性が高いようだ。

 

ロシア・・・ロシア大統領の任期は4年で2期まで再任出来る。2008年に憲法が改正され次の選挙から6年に延長され、現在のドミナリー・メドヴェージェフ大統領は2012年5月に任期を迎え、2期目を戦うことになる。政敵のモスクワ市長を解任し、国後島を訪問し強い大統領を演出する。プーチン氏との2頭体制の前に座るのか、後ろに座るのかここでも熾烈な戦いがあるだろう。

 

アメリカ・・・中間選挙においてオバマ民主党は72年ぶりの大敗となった。上院は各州から2名選出され定数100人が任期6年のうち2年ごとに3分の1ずつ改選される。下院は各州の人口配分により定数は435人で任期は2年である。大統領に解散権はなく任期は4年であるが、2年ごとに選挙が行われる。今回の選挙のように大統領の任期の間に行われる選挙が中間選挙である。

弾劾裁判権、条約の批准、大統領指名人事の3つは上院のみが行使できる権限だが、予算案及び関連法案の発議権は下院が有している。

予算案を含む全ての法案は上下両院の承認が必要となる。

今回の中間選挙は「ティーパーティー」と名乗る団体が、民主党が進めてきた巨額の税金を投入する景気対策や医療保険改革を批判し、「小さい政府」を目指す勢いが勝つこととなった。

景気の先行き不安、住宅市況・不動産市況の低迷、失業率の高止まり、中小企業の不振とそれに伴う地方銀行の破綻、州レベルの疲弊、貧困の増大などアメリカは多くの問題を抱える。

民主党の景気対策は下院で多数を共和党に取られたことで、多額な資金投入で金融や自動車を助けたような財政政策が取れなくなり、金融政策中心となる見込みだ。

FRBは「出口戦略」を進める計画から逆に、景気先行き懸念から事実上のゼロ金利維持や追加緩和策として6000億ドルの長期米国債を購入し市場に資金を供給すると発表した。

11月3日にFRBが追加緩和策を発表するとNYダウは前日比291ドル高の1万1434ドルを付け、リーマンショック後の最安値6547ドルから70%以上の値上がりとなった。

しかし、資金の供給はドルの過剰流動性となり、ドルの信認低下、ドル安となって、円や新興国の通貨高や資源高につながっていく。先のG20において、通貨の競争的な切下げを回避との意見が多数出て、共和党においても反対意見が多く出始めた。

民主党は財政政策にタガをはめられ、金融政策も厳しい批判にさらされ、打つ手が狭められアメリカ経済の先行きに不安が生じ始めた。

大統領選挙は2年後の2012年に行われるが、これから共和党との激しい戦いが待ち受けている。

 

マルクスの共産党宣言は1848年に発表された。「ヨーロッパに幽霊が出る・・共産主義という幽霊である」から始まり、「万国の労働者は団結せよ」で終わる。

そして「これまでの世界の全ての歴史は階級闘争の歴史である」とし、ブルジョアジーとプロレタリアートとの戦いで、暴力によるブルジョアジーの転覆を目標とするものだ。

中国、ロシア、北朝鮮はもはやブルジョアジーとプロレタリアーとの階級闘争の共産主義国ではなく、党を支配する特権階級と支配される人民の階級闘争に変わってしまった。そして、これらの国は党とそれによる支配者層の利権を守る国としてより保守化し、対外的な圧力を平然と行う国となった。

日本はこのような国家に裏側を取り囲まれている。アメリカはインドと手を結びこれらの国に対峙する姿勢をチラつかせ始め、新しい冷戦がはじまる気配もうかがえる。

2012年に政治の季節に向い、日本がどのように動くのだろうか。「友愛」などという曖昧な態度では何も変わらない時代となっているが、枝葉末節な問題に多大な時間をかけ、何も決めない、何もしない日本になっている。

大きな時代の変化の中で、ガラパゴス列島になるのだろうか。いずれにしても国家としての覚悟が求められている。

 

以上

資料1.WTO、TPPなどの参加国一覧表

 

参考資料・・・日本経済新聞、産経新聞、SAPIO11月24日号、日経ビジネスなど。

農業統計は総務省統計局発行、日本の統計2010による。

 

WTO-TPPなどの参加国