レポートNo03 2010.10.15  <倉林 勝>

「中国事情」

尖閣問題は日中に刺さった棘だ、日本から見た事情、中国から見た事情、真実は誰もわからないがリスクは高まり、日中相互依存関係にある今日、問題の長期化は双方に大きな影響を与える。

 

クリントン政権で東アジア・太平洋局の国務次官補であったスーザン・シャークの言を借りれば、中国指導者の西側先進国にはない政権維持のための不安と恐怖を理解する必要がある。2012年に向い、政治の季節に入った中国は、決して外部に見せることはないが激しい政争が始まっているようだ。

 

中国は世界の工場から消費地に変わり、先進国の需要不足をカバーし、ネット通販も外資に開放する。ネット消費者は海外サイトを好む傾向が他の国に比べ大きい。

 

 


(A)中国事情

東シナ海波高し

「暑さ寒さも彼岸まで」猛暑続きの初秋も彼岸を境に一気に秋の気配を濃くしたが、「友愛」の東シナ海は一気に冬の「覇権」の海にかわった。

 

9月3日に尖閣諸島付近の日本領海内で海上保安庁の巡視船と中国漁船の衝突事件による漁船船長の逮捕は日中双方に大きな衝撃波となった。

中国側の執拗な抗議、日本側の「国内法に則して粛々と対応」と、線は交わらず解決の道が不透明のまま時間が過ぎていく。

19日には中国が閣僚級以上の交流停止を表明、21日には温家宝首相が船長の「即時無条件釈放」を要求、23日にはレアアースの対日輸出の禁止措置を報道、24日フジタ日本人社員4人河北省で拘束、そして日本はついに圧力に抗しきれず、24日に処分保留により中国人船長の釈放を決定し25日に釈放する。その後中国は日本に対し謝罪と賠償を求め、日本は拒否する。

国際社会に対し、特にアジアに対し、一連の流れは日本の圧力に弱い体質を見せつけ、中国は強硬な覇権主義国家との印象を与え、共にマイナス面を見せつけた。

10月5日ブリュッセルでのアジア欧州会議において管首相と温家宝首相との間で話し合いが行われ「現状は好ましくない」との認識を示し、領土問題は双方原則論に終始するが、戦略的互恵関係の確認やハイレベル協議を適時に開催、民間交流の復活などが話合われた。

日中双方共に軟化の兆しは見えつつも解決まではまだ長い時間を要しそうだ。

中国は日本との相互関係にメリットがあるとの考へもあるが、国際社会の圧力「対中国警戒論」を強く意識しているようだ。

 

巡視船と中国漁船の衝突は事故なのか事件なのか、領海を侵入し逃走する漁船の偶発的な事故なのか、何か意図をもって仕組まれた事件なのか不明のままだ。管首相も見ていないというビデオになにが描かれているのか、それも不明のままだ。

 

尖閣諸島は1885年(M28)に清国の支配が及んでいる痕跡がない無人島であることを確認し日本の領有を閣議決定した。1969年に国連の報告書で尖閣諸島付近に石油や天然ガスが大量に埋蔵されている可能性が指摘され、1971年に中国、台湾が共に領有権を主張し、中国は1992年(H4)に制定した領海法で自国領と定めた。その後、日中台の間で度々問題の起こる地域となった。

1978年10月に訪日した鄧小平は「この問題(領有権問題)は後の世代の知恵に任せて解決しよう」と棚上げにする方針を表明し、日本の実効支配を黙認してきた。

小泉首相時代の2004年3月に中国人活動家7人が尖閣諸島に不法上陸する事件が起きるが、声高に領有権を主張することなく「日中関係に悪影響を与えないよう大局的判断」で活動家を起訴せず強制送還するということとなった。今回は民主党が声高に領有権を主張し「我が国の法律に基づいて毅然と対応していく」と中国への刺激を恐れない対応を見せたが、途中で腰砕けとなった。先を読まないヘボ将棋の感だ。

鄧小平の時代は改革・開放政策が開始される直前で、日本からの投資や技術援助を必要としていたが、現在の中国は世界第2のGDPを持つ大国となり世界に対し存在感を高めている。

衝突事件の背景に何があるのだろうか。

 


日本サイドからの仮説

9月14日、事件から1週間後民主党の代表選において管首相が小沢前幹事長に勝利し、9月17日に管改造内閣がスタートする。中国側の圧力はこの頃から更に強まる。

小沢氏は140人余りの国会議員を含む626人で中国に赴き胡錦濤主席に朝貢するような態度を見せ、次期主席を噂される政治局常務委員の習近平氏と天皇陛下との会見を宮内庁を脅して実現する。

鳩山氏は東シナ海を「友愛の海」と称し、尖閣諸島の帰属問題は日本と中国の当事者同士で議論をして結論を見出してもらいたいと発言し、尖閣諸島に日米安保条約が適応されるかはアメリカと相談するといい、沖縄の海兵隊は抑止力に役立つことを首相になってから初めて学んだという。

親中と思われる2人に対し管政権は反小沢で固まり、前原氏のように親米も多い。この事件を利用し鳩山、小沢氏の力を削いでアメリカとの関係改善を図り、中国脅威を印象付け普天間問題を解決しようとしたのではないか。

従来は漁船を追いかけても、追い詰めて拿捕や逮捕はなかったが、今回は領土問題を持ち出し国内法で対応すると声高に宣言し中国を刺激した。

水面下で「日本にも色々と事情があるだろうが、我々にも複雑な事情がある」との中国側のメッセージを無視したこと、あるいは中国が怒ることを知っていて逮捕起訴する意思を見せたことなどを考えると、民主党内で親中派から親米派の巻き返しが起きているのではないかと考えてしまう。反小沢氏急先鋒の枝野氏が、日中軟化の兆しの見える中で「中国には法治主義は通ぜず、悪しき隣人」と講演するなどもその流れにあるのかも知れない。

民主党は党綱領も無く反自民で集まった右から左までを包含した不思議な党だ。外交について統一的な考えがない中で親中、親米と揺れているのだろう。

覚悟を持たない政治家は中国の圧力にオロオロするばかりの醜態を見せつけた。

 


中国サイドからの仮説(1)

中国は多くの国際的領土問題を抱え、1962年中印国境紛争、1969年中ソ国境紛争、1979年中越国境紛争などがあり、戦争に繋がったこともある。ソ連との領土問題は2001年中露善隣友好協力条約を結び解決したが、東シナ海や南シナ海、インド、タジキスタンなどでは国境紛争が今まだ続いている。

中国は領土などに関する問題を「国家の利益」と「国家の核心的利益」に分類し、台湾、チベット、新彊ウイグルと共に東南アジア諸国と領有権を争う南沙諸島を含む南シナ海を、一切の妥協を拒み、軍事戦略も辞さない最高級の「国家の核心的利益」としている。

中国は13億人を超える人口を抱え、国家発展のために資源と食料の確保に力を入れる。尖閣諸島を含む東シナ海は石油や天然ガスが大量に埋蔵されている可能性も高く漁業資源も豊富な海だ。もし尖閣諸島が中国の領土となれば、日中中間線は中国の主張する200カイリラインに近づき、白樺ガス田など日中中間線上の他のガス田も中国独自のものとなる。また、200カイリラインは中国領海から海軍が直接太平洋に出ることも可能となり太平洋を挟んで米国と対峙することも可能となる。

高度経済成長で中国政府や国民が自信を深めるなか、鄧小平が決めた棚上げ方針を修正する声も上がり、軍部は「魚釣島の主権を明確にしなければならない時期がきた」との発言をする。

今回の事件は軍部が漁船を使い、日本に圧力をかけ、その後対日攻勢をエスカレートさせて、東シナ海を南シナ海と同様な「国家の核心的利益」と位置づける考えを明確にしたとも考えられる。

 


中国サイドからの仮説(2)

中国は2年後の2012年秋に中国共産党指導部の最高権力者が後退する予定だ。

中国は他の先進諸国とは違い最高権力者は大統領や首相ではなく、中国共産党の総書記が最高権力者である。そして指導層は共産党中央政治局の現在は9人の常務委員のことを指す。

中国共産党に日本の内閣に相当する国務院も人民解放軍を管轄する中央軍事委員会も管理されている。

9人の常務委員の中に胡錦濤、温家宝、習近平などがいる。

序列第1位は胡錦濤で総書記、国家主席、中央軍事委員会主席を兼務する。

序列第2位は呉邦国で全国人民代表大会(立法府に相当)常務委員を務める。

序列第3位は温家宝で国務院(行政府に相当)総理(首相)を務める。

世代交代が予想される習近平は序列第6位で国家副主席を務め、李克強は序列第7位で国務院副総理を務める。

5年に一度開催される2000人規模の全国人民代表大会で選出される200人程の中央委員会委員が政治局委員、政治局常務委員、総書記などを選出する。一般人民を有権者とする選挙と違い、内部では激しい闘争が繰り広げられることとなる。

現国家主席の胡錦濤は07年の2期目に入り習近平を国家副主席に昇格させ、次期主席候補と位置づけているようだが、予測は難しい。

 

今回の事件は偶発的なものだが中国政府が尖閣諸島を領土と宣言しているにも関わらず、日本が国家主権を声高に訴え中国漁船を拿捕し船長を逮捕したことで中国政府の主張に齟齬が生まれ、中国人民に疑問が生じ、インターネットなどで強硬論がおきて、それに対応するために日本に向けて強硬策を打ち出した。

対日関係を重視し「戦略的互恵関係」を重視する胡錦濤主席に路線の修正を迫る強攻路線派や軍の声などを無視することができず、スムースに政権を移行させることを重視し日本に対し強硬姿勢を見せている。

 

どれも仮説で真実は不明だ。しかし、戦略的互恵関係を結びながら中国は「チャイナファースト」から「チャイナリスク」に変わったことは事実である。

 


中国指導者の不安

中国は主権を持った国民が選挙で政党や大統領を選ぶのではなく、主権をもった共産党が指導者層を決め、党が人民を支配する構図だ。しかし、この人民はインターネットという武器をもって共産党を監視し、強いメッセージを発し、支配者層に圧力をかけることが可能となった。

 

中国の指導者たちは国内における自分達の立場について深い不安の念を抱いている。超大国への道を歩みつつあるように見えて、中国という国家の、自国社会に対する支配力は、実は極めて脆弱だという事情が、その不安の根底にある。

世界にとって最も危険なのは、伸長著しい中国の経済力でも軍事力でもなく、その内なる脆さの方なのである。

中国との戦争を回避したいのであれば、中国の指導者たちの行動の内側にある不安と恐怖の念を理解することが、どうしても必要だ。

中国の指導者は選挙戦を勝ち抜かなくてもよいが、逆に先進国の指導者が気にしなくても良いようなさまざまなリスクに直面している。ライバルによって失脚させられるかもしれないし、大衆的な抗議運動が勃発して、共産党支配を転覆することだって考えられる。特に、軍部が共産党を支持することをやめれば、反体制運動が勝利する可能性は飛躍的に高まる。

中国の指導者たちにとっての政治的敗北は、そのまま破滅を意味する。彼ら自身や彼らの家族は収入の道を絶たれることになるだろうし、場合によっては命を失うかもしれない。そして、中国の指導者たちは、自分達が権力を失う日が決して遠くないと考え、恐怖心の虜になっている。

中国の指導者たちにとって最悪のシナリオというのは、失業した労働者、徹底的に搾取された農民、それに学生といった不満分子が、熱情的なナショナリズムの力で一つの反体制勢力にまとまり、全国的な抗議運動を展開するというものだ。

毛沢東と鄧小平以降、中国の指導者の権威は弱くなる一方で、その傾向はそのまま続いている。

共産主義などほとんど誰も信じなくなってしまった時代に生きるため、共産党はナショナリズムを新しいイデオロギーとして採用した。

1990年代に江沢民前主席は自分と共産党に対する中国の一般市民の支持を高めようと、日本の中国に対する侵略と戦争の苦い記憶を呼び覚まし、反日ナショナリズムの火に油を注いだ。

中国の指導者はナショナリズムの火が、いつ自分達に向かってくるのかを恐れている。

(スーザンL.シャーク著、中国・危うい超大国、2008年3月、日本放送出版協会発行)

 

尖閣問題が起こり改めて再読したが、非常に示唆に富んでいる。中国の指導者の内側にある不安と恐怖の念を理解することが必要だとの考えを強調する。民主党も他の政治家にも読んで欲しい本だ。

スーザン・シャーク女史は1791年ニクソン訪中に先立って中国側から招待される15人の学生の一人として、貧しい都市や田舎を1か月にわたり見聞し、時の周恩来首相とも会っている。

その後中国政治研究者としてクリントン政権時代に国務次官補として東アジア・太平洋局に所属した。

中国について書かれた本は数多いが、親中や嫌中というかなりバイアスのかかった本が多い中で、この本は非常にニュートラルだと思える。

 

同時に水木楊氏(レポートNo1で紹介した2025年日本の死の著者)が2007年4月に出版した「北京炎上」を再読する。(水木楊・著、文芸春秋社)

第二の天安門事件が2014年に起きて、共産党の支配が終わり、各地が独立し新しい「中華連邦共和国」が生まれるまでのシミュレーション小説だが、中国の指導者が恐れる事態を克明に描いている。

興味にある方はご一読を。

 


中国が内包する問題

2010年4~6月期において中国のGDPは日本を抜き世界第2位の国になったようだが、一人当たりGDPはまだ日本の1割以下で、世界の100番目前後でしかない。急激な経済成長の中で中国はさまざまな問題を抱えている。

*民族問題・・・チベットや新彊ウイグル、内モンゴルや少数民族などの分離独立問題。

*領土問題・・・南沙諸島、尖閣諸島、ベトナム、インドなど、尖閣も入るのか。

*環境問題・・・空気・水・土壌の汚染、水資源枯渇による砂漠化は北京郊外60キロまで達するなど。

*食糧問題・・・価格高騰、安全問題、量の確保の問題。

*人口問題・・・急速な高齢化。

*格差問題・・・沿海部と内陸部の所得格差は約10倍、都市家庭と農村家庭は約3.3倍、

          上海と内陸農村部の所得格差は9倍を超える。

          富を少数の政治、経済エリートに集中し全家庭の0.4%が社会全体の70%を持つ。

          所得格差が都市部農民工などのストとなり、労働コストの上昇、世界の工場からの

          外資離れを引き起こす。

*不正問題・・・地方役人、政府幹部、共産党などの不正問題。汚職、密輸、横領、職権乱用など。

*対外問題・・・人民元レート問題、偽物問題、知的財産権問題など。

          「海賊版拡散防止条約」に日・米・欧など11カ国・地域で合意するが中国は不参加。

          台湾問題、北朝鮮問題、エネルギー・資源問題。

*自由化問題・・・言論統制、NET統制、報道統制、独裁・反民主化、教育差別、参政権、平等意識な

           ど。

*失業問題・・・1000万人を超える大卒者の就職難問題など。

*天災異変・・・四川大地震、洪水、脆弱なインフラ、手抜き工事など。

 

これらの問題を抱え、中国では年間数万件、1日に200件近くの暴動や過激なデモが起きている。

これら騒動の点が、線となり、面となって大きなうねりとなり、インターネットと携帯電話の普及が動きを加速させ、第2の天安門事件になることを中国共産党は恐れている。

これらの問題を解決する手段としてナショナリズムを打ち立てるが、ナショナリズムは少し間違えば共産党政権に向かう危険性を持っている。結局、経済発展を持ってこれらの問題に対処することが最大対処方でGDP至上主義とつながっていく。

 

中国のGDPは日本を抜き世界第2位となったようだが、GDPの中身は先進国とは違う。アメリカのGDPは70%が個人消費だし、日本は60%が個人消費だ。

中国は少し前まで70%が貿易であったが、リーマンショック以降、世界の需要が低下し2009年度の輸出は前年に比べ16%も落ち込み、輸入も11%落ち込んだ。

それをカバーするために、4兆元に及ぶ巨額資金を景気対策として投入した。鉄道、高速道路、空港、港湾などのインフラ整備などの官需、そして住宅などの民需につながり2010年第1四半期は11.9%、第2四半期は10.3%と増加し景気のV字回復をする。

しかし、GDPの45%を超える部分が政府と民間の投資で占められ、投資依存経済となって不動産バブルの崩壊も囁かれるようになった。不動産に対する融資が不良債権化すれば、金融機関のみならず、不動産投資に深く関わる地方政府の財政破綻も引き起こす可能性が高まる。

 

8月の住宅価格は9.3%上昇し、住宅価格が高すぎ購入できないと人民に不満がたまり、4月に2軒目を買う場合の融資規制、9月には3目を買う個人には融資停止などの規制をし、10月には一部地域で不動産に対する固定資産税の試験的導入をし、住宅価格の抑制をはかる。

住宅価格の下落は景気に悪影響を与える可能性が強く、中国としては経済成長のために世界との貿易を増やす必要が常にある。

 

尖閣問題からレアアースの輸出停止や大型観光団の訪日中止などで日本を揺さぶるが、日本と中国は相互補完、相互依存の関係にある。

輸出停止や観光団訪日中止は日本だけでなく、中国側の企業にも影響が及ぶことになる。

国際社会で或いは日本で反中世論に火がつけば、その影響は中国に及んでくる。開かれた国際的な経済システムの最大の受益者は中国自身なのだから。

 

現在も色々な形で中国は日本に圧力をかけ、日本経済への影響もでる。

*外国為替市場での円高誘導 *中国からの訪日観光抑制 *中国国内での日本企業に対する事業認可の遅延 *中国国内のインフラ開発事業での日本企業排除 *日本製品の不買運動 *輸出手続きの遅延 *レアアースなどの戦略物資の輸出停止 *中国国内の日本企業に対する法律運用強化など「チャイナハラスメント」と呼ばれる圧力を掲げるが、相互補完・依存関係から長くは続けられないだろう。

 


戦略的互恵関係

反日ナショナリズムを政権維持に利用した江沢民時代(1993.3~2003.3)の日中関係は「政冷経熱」と呼ばれた。小泉首相時代には靖国問題や国連安保常任理事国入りなどの問題で日中関係は冷え込み2005年4月の上海での反日デモは過激をきわめた。

その後安倍首相は初の外遊を中国とし、続く福田首相も中国よりの政策をとり、共に靖国参拝を取りやめ中国との融和を取り始めた。

2008年5月、胡錦濤国家主席を国賓として招待し、福田首相との間で「戦略的互恵関係」の包括的推進に関する日中共同声明を発表した。

 

「戦略的互恵関係」は、長期にわたる平和及び友好のための協力が日中両国にとっての唯一の選択であるとの認識で一致し、日中両国がアジア・世界に対して責任を負うとの認識の下、アジア・世界に共に貢献する中で、お互いの利益を得て共通利益を拡大し、日中関係を発展させていくとの声明である。

具体的問題として、*政治的相互信頼の増進 *人的、文化的交流の促進、及び友好感情の増進 *互恵協力の強化 *アジア太平洋への貢献 *グローバルな課題への貢献などがあげられる。

 

尖閣問題以降、中国は「戦略的互恵関係」を話題に上げ、幕引きを模索し始めたように見える。

 


日中相互依存

日中の相互依存関係は深まりヒト・モノ・カネの流れは双方で深まる。

訪中日本人は330万人を超え日本からの訪問先としては国別1位(2009年)となり、訪日中国人は今年8月末までに104万人を超え前年比59%増となった。

2009年の日本と中国との輸出入は21兆6700億円となり、アメリカを抜いて日本としての最大の貿易相手国となった。

中国からの輸出は香港を別にすればアメリカに次ぐ第2の輸出国であり全体の8%に達する。輸入は日本が最大の輸入国で全体の13%に達する。

日本からの直接投資は2009年には69億ドルに達し最大の投資国であり、直接投資残高は550億ドル(5兆5500億円)と増え続け2001年の5.5倍となった。

中国は日本の国債を買い始め2兆円を超える日本国債を保有している。

相互依存関係は深まっていく。

 

2009年日本の輸出入は、輸出54兆1706億円(前年比△33.1%)、輸入51兆4994億円(△34.8%)となった。

中国への輸出は10兆2356億円(△21.0%)で輸出の約19%をしめ、中国からの輸入は11兆4360億円(△22.9%)で輸入の約22%をしめ、共に第1位の国である。中国との貿易は手元の資料では1997年以来輸入が多く、日本の貿易赤字が続いている。

日本からの輸出は電気機器(半導体電子部品、IC、電気回路など)・構成比25.0%、一般機械(原動機、電算機部品、金属加工機械、遠心分離機、荷役機械など)17.7%、原料製品(鉄鋼、非鉄金属、織物用糸・繊維製品など)15.6%、化学製品(有機化合物、プラスティックなど)14.0%、輸送用機械(自動車、自動車部品など)9.2%などである。

大半の輸出品は中国が再輸出するための機械や材料、部品などで中国人が消費する民生品はほとんどない。中国の日本からの輸入は中国の輸出に貢献し、GDP成長に不可欠なものが多い。

 

中国からの輸入はその他(衣類・同付属品、家具、バックなど)・構成比36.0%、電気機器(音響映像機器、通信機など)21.9%、一般機械(電算機器など)16.0%、原料製品(金属製品、織物用糸・繊維製品など)11.8%、食品5.6%などである。

中国からの輸入は圧倒的に民生品である。

一番は繊維関係で衣類・同付属品が最大で1兆9545億円・17.1%、食料品6405億円・5.6%、織物用糸・繊維製品3949億円・3.5%、電算機類8817億円・7.7%、音響映像機器6633億円・5.8%、通信機5176億円・4.5%、家具2689億円・2.4%、バック2387億円・2.1%などである。レアアースなど特殊なものを除けば中国からの輸入品は価格を別にすれば代替えはありそうだ。

 

日中の相互依存関係が失われることは中国にとって大きなリスクとなるであろうし、中国の輸出企業にとっても大きな影響を及ぼすであろう。「戦略的互恵関係」は日中共に必要としている。

中国からアジア全体(日本・韓国からインド・サウジアラビアまでを含めて)への輸出は全輸出の約半分47.3%をしめる。アジアが「反中国」でまとまるようなことがおきれば、中国の経済成長はマイナスに陥り、恐れる事態が起きるかも知れない。

 


(B)世界の消費市場

中国は世界の工場から世界の消費地に変わる

長年にわたり中国は世界の生産国として存在し経済発展を遂げてきた。リーマンショック後、4兆元(60兆円)に上る投資で内需を開拓し、今は世界経済に無くてはならない消費国へ変貌した。

過剰消費による個人債務問題を抱える米国、金融システム不安の欧州、構造的デフレ圧力にさらされる日本は景気減速、足踏み状態が続いている。

そして、日・米・欧の先進国は経済不安を持つ中で1兆ドル(100兆円)規模の需要不足を抱えている。

解決するのは新興国の需要で、特に中国の需要を無視することはできない。

 

日本も生産地として工場移転を進め、商社もインフラ投資など積極的に進めてきたが、ここにきて小売業の進出も勢いづいている。

イトーヨーカ堂は北京、四川に14店舗を展開、イオンは広東、青島、華南、北京で23店舗を既に展開している。

コンビニエンスはファミリーマートが15年末までに4500店舗、ローソンが上海に300店舗、ミニストップは中国、韓国、フィリッピンで4500店舗、セブンイレブンは15年末に1000店舗など積極的な進出を計画する。

フランフランは中国に子会社を作り進出を計画、ユニーも、しまむらも、高島屋も計画中、百貨店やアパレル、雑貨だけでなく、飲食も積極的だ。カレーの壱番屋、サイゼリア、吉野家なども中国を中心に海外進出に積極的だ。

日本の高齢化に伴うデフレや市場縮小の中で、小売業も国内に留まるだけでは成長はない。

今回の事件でリスクを覚悟するが、出店を止める企業は見当たらない。許認可等で若干の遅れは覚悟するものの積極的に計画を進めていく。

 

今年9月に中国はネット通販を外資に開放した。

中国でネット販売をするためには商務省の情報産業部が定めるICPライセンスを取る必要がある。

(ICP・・・Internet Content Provider、情報統制のため2005年2月から実施された中国語サイトの管理制度)

ICPライセンスには「ICP登録」「ICP営業許可書」があり、「ICP登録」は企業が自社のHPなど非営業性インターネット情報サービスに義務付けられているもので、「ICP営業許可書」は企業がインターネット販売などの事業を行う営業性インターネット情報サービスに義務づけられるものである。

今まで、「ICP営業許可書」が外資企業に与えられることはなかったが、規制を緩和し外資へ解禁することとなった。

既に中国に進出済みの製造業や流通業に許可し、新たにネット販売企業の設立やネットショッピングモールの立ち上げも許可する意向だ。

ヤフーがアリババグループのタオパオと楽天が検索サイトの百度と組むなどしているが、今後は流通業も含めて単独の出店が可能となった。

コクヨ、ユニクロ、ニッセン、千趣会などが計画を発表した。

 


中国ネット事情(経済産業省・H21年電子商取引市場調査)

中国のインターネットユーザーは3億8400万人、普及率は28.9%である。その内90.1%にあたる3億4600万人がブロードバンドに接続している。(2009.12月)

携帯電話の契約者数は7億4738万人で普及率は56.3%に達した。(2009.12月)

2009年のBtoC-EC市場及び、CtoC-EC市場の合計は2484億元(元=15円、3兆7260億円)、前年比93.7%増となった。そのうち、CtoC-EC市場は約93%の2307億元(3兆4605億円)となる。

2013年にはEC市場合計で、14兆円規模になると推定される。

 

中国で購入される商品、サービス内容は・・・衣類・アクセサリー59.0%、書籍・雑誌(ダウンロードは含まず)55.4%、音楽・映像のダウンロード42.7%、金融サービス42.7%、書籍のダウンロード39.2%、パソコン・周辺機器34.8%、音楽・映像ソフト(ダウンロードサービスを含まず)31.7%、雑貨・玩具・花卉・家具・インテリア31.8%、医薬・化粧品30.0%などが上位にならぶ。

 

インターネット購入理由は・・・実店舗で買うよりも価格が安いから78.2%、店舗までの移動時間・営業時間を気にせずに買い物ができるから65.1%、検索機能などにより、購入したい商品を探しやすいから47.5%、一般の商店ではあまり扱われていない商品・サービスの購入ができるから45.7%などが上位をしめる。

 

今回通産省は越境電子商取引に関する消費者動向も調査した。

 

中国のEC利用者が日本のECサイトから購入した商品・サービスは

書籍・雑誌(ダウンロードは含まず)8.0%、コンピューターゲームのソフト(ダウンロードは含まず)8.0%、衣類・アクセサリー7.5%、音楽・映像コンテンツのダウンロード6.0%、雑貨・玩具・花卉・家具・インテリア5.2%、医薬・化粧品5.1%が上位である。

中国EC利用者の海外ECヘの興味は自国製品や安全性、信頼性(偽物)などに対する不信の表れだろうか。

 


(C)やはり異質な中国

ノーベル平和賞受賞

このレポートを書いている最中に中国民主化運動で、現在拘束中の劉暁波氏がノーベル平和賞を受賞した。このニュースを取上げる西側TVの映像が一瞬のうちに消える事象や、受賞に対しノルウェー政府に対する強硬姿勢などを通じ、世界は中国を人権を無視する異質の国との印象を強く持った。

劉氏は天安門事件で民主化を叫び、2008年12月の08憲章で中国共産党の一党独裁体制を批判し、言論、宗教、集会、結社等の自由を要求した。かつての反革命宣伝扇動罪、1997年に改正された国家政権転覆扇動罪によって現在懲役11年の刑に処せられている。この件で中国はインターネットや携帯電話の制限を行っている。

 

中国支配層の最大の目標は共産党の一党支配が永遠に続くことである。その為に中国人民の不満を解消するためには経済成長が最大のテーマとなる。

共産党にとって、民主化運動は(言論、宗教、集会、結社の自由)は共産党を脅かす最大の運動と位置付けられている。運動が点から線に変わり面になることを恐れ、インターネットなどの情報統制も厳しく行われる。

 

中国の党や幹部はインターネットを通じて伺い知ることのできる世論が、中国市民の平均値の意見ではなく、過激なナショナリズムの方向に偏向していることは承知している。

インターネット上で自分の意見を開陳する人々には極端な立場を取る人が多い。ものの見方が穏健な人は自分の意見に関してはそれほど感情的にならないものだ。自分の政治的見解をインターネット上で公表すれば罰せられかねない中国ではなおさら、ウェブ上の論議は自分の過激な意見を盲信している人によるものばかりとなるだろう。

インターネット上に溢れかえる排外主義的な論調は決して社会の主流とはいえない。いわば傍流の意見である。何ゆえに中国の指導層はそのような意見に、それほど神経を尖らせているのだろうか。

民主主義国では、政治家は科学的に選ばれた、代表的な標本人口に対する意識調査に頼ることになる。選挙で勝利するには、平均的な有権者の考えていることがわかる必要があるからだ。

だが、中国のような非民主主義国では、指導層は当然ながら、ありもしない選挙の勝ち負けなど気にしていない。政治的サバイバルは、何かの問題についての関心があまりにも強くて激しいために、表だって抗議行動を起こしそうな、先鋭的な人々に注意することで確保されるのだ。

現在の中国で大規模なデモに参加したり、それを組織したりする危険性が最も大きいのは、リスクもかえりみずにインターネット上で過激な意見を述べているような人々なのである。(スーザン・シャーク 危うい超大国・中国)

 


中国は2012年に向けて政治の季節にはいった。

尖閣問題も、ノーベル平和賞も喉にささるトゲである。

中国進出の日本企業もリスクを意識することになるだろう。

以上

 


資料.スーザンL.シャーク著・危うい超大国/中国・日本放送協会、2008年3月

水木楊・北京炎上・文芸春秋社、2007年4月

宇佐美暁・三菱総合研究所、手に取るように中国がわかる本・かんき出版、2008年11月

日経ビジネス、日本経済新聞、産経新聞他

データ資料.財務省・・貿易統計、外務省・・戦略的互恵関係、

経済産業省・・H21年電子商取引に関する市場調査、ジェトロ・・中国の輸出統計他